第八十一話 異訪の者
「それで一旦戻ってきたというわけか」
アカシの問いにジェノベーゼは頷きを返す。つまりそれはどういうことか。
「そのものどもは、連れて来ているのか」
「集落の近くに、待たせてあります」
ジェノベーゼは、己がケンサキ族の集落を捜していたことを二頭に話し、ここまで引き連れてきたのだという。
ケンサキ族はいい。問題はもう一頭の、タラバ族と思しき殻持つものだ。
どうして一頭でいるのか。どうしてケンサキ族と共にいるのか。旅をしているとはどういうことか。
疑問は尽きない。ジェノベーゼの判断では危険がなさそうである、と。そういうことなのだろう。
その判断が正しいのか否か。アカシにはわからぬ。
「会おう」
決断を下した。集落の中へ引き入れるわけにはいかない。こちらから出向くべきだろう。
タコワサだけを連れて、会いに向かうことにした。もしも戦いになったとして。一頭であれば、アカシとタコワサ、そしてジェノベーゼの三頭でかかれば、抑えられるはずだ。
門を出る。タコワサは投げ銛を背負ってついてきた。正しい判断だ。
ジェノベーゼの先導に続いて、泳ぎ進んだ。
海藻の増えて来る地との境目辺りに、二頭は佇んでいる。
一頭はケンサキ族。確かに、マ族やミズ族に近しい特徴を備えている。その体表は柔らかく、触手を備えている。触手の数は十本。そのうち二本が他のものより長い。色はやけに白く、全体にほっそりとしている。胴は尖り、先に魚の鰭のようなものがついている。
もう一頭。一目で、これはタラバ族ではない、と判じた。
まず、目につくのがその巨体だ。大きい。最も年を経たタラバで、ようやくその大きさに育つか。そのくらいの巨大さだ。多くのタラバ族と戦いを繰り広げてきたアカシだが、この大きさに並ぶものといえば、一度狩り場で相見えたことがあるタラバ族の長老くらいしか知らぬ。
そして、その甲殻の鮮やかさ。年を経たタラバは、その甲殻の色も岩の色に近づいていく。だがその殻持つものは、生まれたばかりの若タラバのごとき鮮やかな色をしている。甲羅の棘も少なく、すべらかであるように見える。
そして何より驚くべきこと。警戒すべきことは。
脚の数が、一対多い。
他の脚よりはやや小さいが、地面に近い部分にもう一対、脚があるのがわかる。それは身体を小さく移動させるための脚だろう、とアカシはすぐさま見抜いた。
つまりこの種族は。総じてタラバ族よりも手強い種族だ。アカシはそう考えることにした。




