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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第八十話 ジェノベーゼ

 ジェノベーゼに武器を収めるよう懇願すると、彼はやや大きな声で殻持つものに呼びかけた。殻持つものはゆっくりと近づいてくる。

「彼は、僕の味方です」

 そんな驚くべきことを告げたが、考えてみれば、今マ族の集落にもタラバ族がいる。何か事情があるならばそういうこともあるのだろう、と思うことにした。

 それよりも、確かめねばならぬことがある。

「ところであなたは、ケンサキ族か」

「はい。シオカラ、と申します」

 そういう答えが返ってきた。

 やはりそうであったか。ジェノベーゼは己の巡りのよさに、触手を握り丸めた。

 殻持つものが二頭のもとに到着する。

「そしてこちらの御仁は、旅の途中で一緒になったものです」

 このケンサキ族も殻持つものも、旅の途中なのだという。やはり何か曰くがありそうであった。

 ジェノベーゼがこの探索行に選ばれたのには理由がある。雌であること、優秀な戦士であることはもちろんであるが、それに加えて、交渉事が上手い、とみなされていたことだ。

 もちろん長老たちのように、そういった事柄を生業としているものどものようにはいかぬ。だが戦士の中においては、他者の話を聞き、互いの意見を調整することに優れている。そう評価されているようだった。

 ジェノベーゼはそうでないことを知っている。彼女がわかっていることは一つだ。

 己は、惚れっぽいのだ。

 見知った相手を嫌うということが、どうにもできない。いや、嫌うという感情はあるのだが、それを長続きさせることができないのだ。

 少しうねりが過ぎるともう、その相手を嫌ったり憎んだり、そういうこと自体が何とも面倒になって、考えることをやめてしまう。そうしてこころのうちにはいつも、嬉しい気持ちや楽しい気持ちばかりが詰まっている。気付けばそういうことになっている。

 そうしていても、いくつもの辛いことや厳しいこと、憤りを覚えることが次々襲い来るのが環というものではある。だがそれでも、己のこういう心根はおそらく、他のものどもよりはこの環を生きてゆくことを楽にしてくれているのであろう。そう思っている。

 そして、相手のいい部分、というのを少しでも知ってしまうと、もういけない。

 現にジェノベーゼは、ケンサキ族から紹介された時点でもう、その巨大な殻持つものに対する敵対感情を失いつつあった。このとき不意をつかれていれば、ジェノベーゼは瞬く間に食われていたことだろう。

 だがこのたびは、ジェノベーゼのその性向はよい方に働いたようであった。


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