表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
76/148

第七十六話 現実

「長き殻どもが来て、お前たちもそうではなくなった。そういうことはもう、できぬのだ」

 届いているのかどうか。アカシにはわからない。だがそれでも、教え諭すように言葉を続ける。

 あらゆることに変わるべきことというのは来る。マ族にとっては今がそうだが、タラバ族にとってもそれは同様だとアカシは判じている。

 それは必要なことであるし、多くのものは、それが必要であることは何らかのかたちで知り、感じているはずだ。

 だが、だからといって、その転換のときにぶち当たったものたちが皆、すぐさまに納得できるわけではない。わかっていることとそれとは、まったく別のものだ。

 カルパッチョという異物が身近にいたおかげで、アカシ自身は、他のマ族に比べれば多少、環の広さというものを見知ってはいる。だがそれでもやはり、考えることの根本はマ族のものからはみ出すものではない。

 そこから泳ぎ出してゆくのは別のものどもだろう。そう思っていた。

 例えば、先のうねりに小頭となったタツタアゲ。彼はアカシなどよりもずっと異物だ。

 タツタアゲは、先のマ族とミズ族の婚姻によって産まれた卵らの、次の世代のうちの一頭である。彼の肉体には、マ族の墨とミズ族の墨が混ざり合って蓄えられている。

 容易い生ではなかったはずだ。表向きには彼ら混じりものは、そうでないものと分け隔てなく扱われてはいる。だが、岩に陰が差す場所においては、彼らを露骨に排斥するものもいる。そういったあからさまにならぬ悪意を受けつつ、ここまで生き抜き、ついには小頭まで至ったのだ。

 個の武技においては、タツタアゲはアカシやタコワサに到底敵うものではなく、小頭たちの中でも最下位に等しい。だが、数頭の戦士を率いての狩りでは、目を見張るものがあった。そして今、長き殻どもとの戦で必要とされるのは、そういう力である。

 おそらくあやつは、狩りの中に他の小頭たちとは別のものを見ている。アカシはそう判じていた。

 閉じられた環の外に泳ぎ出でていくのは。おそらく、こういうものたちなのだ。

「俺にはわかるべくもないが」

 そう前置いた上で、語る。

「働きのないもの、働きの少ないものでも生き、営むことができる。そのような環はきっと、得難いものではあるのだろうな。それぞれの命が容易くは脅かされない。それは、何と心安らぐことであろうな。だが、それを成すことは。とてもとても、難しいことであろうな」

 そして。

「一度それらが成ったとして。それを守ってゆくことは。もっともっと、難しいことなのであろうな」

 カニカマは肉塊を見つめ続けている。それ以上の言葉を、アカシは持っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ