第七十四話 騒ぎ
オドリグイとナムルが棘持つものどもの集落に到着していた頃。
マ族の集落では騒ぎが二つ、持ち上がっていた。
騒ぎの一つ目は、タラバ族の若者、カニカマが引き起こしたものだ。
食糧不足の報告を受けた長老は、ひとつの決定を下した。
集落に捕えている、カニカマ以外の二頭のタラバ族。それらを仕留め、当座の食糧とすることを決めた。
通達を受けた二頭は静かなものだった。敗れれば相手の糧となる。それがこの環のならいだ。はじめから今まで、一切マ族に協力する姿勢を見せなかった二頭は、すでに覚悟を決めていたようであった。
抵抗したのはカニカマだ。己が許されたのだから、当然、残りの二頭もいつかは許されると、そう思い込んでいたのだ。
それは誤りだ。役に立つつもりがないなら、別の形で役立たせる。アカシとてはじめからそのつもりで、集落まで引き連れてきたのだ。
暴れるカニカマは、アカシとタコワサ、ウスヅクリとで静かにさせた。そうして、三頭がかりで広場まで引っ張ってきたのだ。
仲間の最期をカニカマに見せる。これは儀礼であり、義務であり、そして慈悲でもある。
二頭の若タラバが広場に引きずり出される。その周囲を、槍を持った戦士たちが取り囲んだ。
「突け」
命を下す。二頭の断末魔とカニカマの叫びが唱和した。
抑えつけるウスヅクリの棒から抜け出そうとカニカマがもがく。立ち上がろうとするその脚を老頭は素早く払い、目の間を鋭く突いて意識を奪った。
「見せぬ方がよかったのでは」
解体の指示を出していたタコワサが、倒れたカニカマを見ながらそんなことを言う。
「己で選んだことだ。こやつも。あの二頭も。こやつは、それを見届ける必要がある」
「だが、これを恨みに思い、戦の最中にでも裏切ったなら」
「なれば、仕方があるまい」
カニカマを戦士に加えると決めたのはアカシだ。ならばアカシは、その責を負わねばならない。
「ま、もう少々、教え諭す必要はあるやもしれませんなあ」
やはり倒れ伏す若タラバを眺めつつ、ウスヅクリも言った。
「考えておこう」
何よりもまずは食糧だ。アカシは思考を切り替え、指示を出すため副官と小頭たちへ触手を向けた。




