第七十三話 伴い
一うねりを棘持つものどもの集落で過ごし、身体の疲れを癒して、二頭は帰路に就くことになった。
改めて族長と思しき頭や、目についた棘持つものどもに辞去の礼を送る。やはり、理解しているのかどうかはわからない。それでも無反応ではないので、相手が何かを受け取っているのだ、ということだけは確かにわかった。
ただ、内容までがきちんと伝わっているかはやはり不明なままだが。
不安も残るが、いや、使命のことも、己自身のことも、そして相変わらず熱っぽい視線を向けて来るナムルのことも含めて不安しか壺の中に残っていない心持ちではあるが、ともかくもやることはやったし帰ると決めた。あとのことは考える頭を持っている方々に決めてもらおう。そう思ったのだ。
「行こか」
「はい、お姉さま」
最早嗜めようとすら思わない。矯正できる機会は、過ぎ去ったのだ。
さらば、うちの産卵。
体表で笑い、こころで泣きながらオドリグイは棘持つものどもの集落を発った。
驚かせぬよう、ある程度の距離までは泳がず、歩いて立ち去る。そう決めていた。
少し進んでから、すぐに気付いた。いや、実はずっと気付いていたが、触れたくなくて無視していたのだ。
「なあ、ナムル」
「はい」
「何か、ついてきてるんやけど」
後方に視線をやると、全身に棘を生やした黒い球体が二つ、その棘をわさわさと動かしながら、等距離を保ってついてきている。その行動はオドリグイにとってはかなり不気味だった。
ナムルが胴を張る。
「きっとお姉さまの舞に魅了されたものどもでしょう。離れ難く後を追いたくなるのは、無理なきことといえます。いえ、むしろ二頭では少なすぎるほどです」
私がきちんと脇を務めていられたならば、棘持つものどもの十頭や二十頭、などと危ういことを口走りはじめたナムルを落ちつかせつつ、どうしようかと考えた。
「どうしよう」
なにも思いつかなかった。
「長老様の意向では、連れて来られるならそれに勝ることはない、ということではなかったのですか。ならば、このまま我らの集落まで引き連れて参りましょう」
「やっぱそうなるんか……」
成功なのだろう。きっとそうなのだろう。
だろうと思うのに、何か釈然としないオドリグイであった。




