第七十二話 舞のあと
舞を終えた二頭は、一うねりを棘持つものどもの集落で過ごすことにした。
本来なら少しでも早く集落に帰るべきであったが、さすがにオドリグイもナムルも疲れ果てていた。特にオドリグイには、この旅路はなかなかに堪えたのだ。
またまた通じているかどうかわからないが、棘持つものどもの長と思われる一頭に断りを入れ、岩場の一部を借り受けることを伝えた。そこで身体を休めてから、帰路につくのだ。
どの棘持つものの活動も阻害していない場所であることを改めて確認してから、二頭は触手を伸ばした。
視界の先に満天の水が広がる。壺がない場所で眠るというのも、久々のことだった。
「申し訳ありませんでした、お姉さま」
二つ舞を終えてからというもの、悄然とした様子のナムルが、そう告げた。
オドリグイの舞についてゆけなかった。その悔しさを抑え切れていないのだ。
「いや」
上水を眺めながら答える。
「むしろ、よくついてきてくれた。あんたやなかったら、最後まで二つ舞を続けることはできんかったやろう。うちはそう思ってる。ようやってくれた」
それは素直な感謝の気持ちだった。多少なりとも、棘持つものどもに自分たちの舞が通じたかもしれない。そう感じるからこそ、余計にそう思う。
触手一本分足りずに、届かなかったやもしれない。そういうことは、あまたにあるのだ。
ナムルの舞に足りないものは多い。だがそれは、これからうねりを経ることで、補ってゆけるものだ。彼女には舞にかける熱がある。これからもっともっと、上手くなるだろう。あのマリネを越えることだって、できるかもしれない。
ナムルをうちの後継者に指名してもいいかもしれない。オドリグイは今、そう思っていた。
「せやからな、ナムル。あんたは堂々胴を張って……」
ナムルの方を向いたオドリグイは、言葉を途切らせた。
水の加減だろうか。いや、きっとそうだと思いたいが、ナムルがオドリグイを見ている二つのまなこが、どうにもきらきらと輝いているように見えるのだ。
それだけではない。ナムルは触手を目の前で組んで、身を乗り出すようにして視線をオドリグイに向けている。
あかん。これ、あかんやつや。
オドリグイはすぐに察した。これまでのいくつもの経験が、オドリグイに気付かせていた。
解消しようと思ってたのに、ひどくしてどうすんねんな。
どうしてこうなった。心の叫びを抑え込んで、もう一度上水を仰いだ。




