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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第七十一話 震え

 二頭は姿勢を改め、棘持つものどもに向き直ると、深々と一礼をした。

 やり遂げた。そういう思いが、オドリグイの中に生まれていた。

 水が震えるのを感じて胴を上げる。広場に並んでいる、すべての棘持つものたちが、棘を揺らし、小刻みに左右に転がっていた。

 一定の距離を保ちながら、半円をつくり、そうしてオドリグイたち二頭を囲むようにして、振動を続けている。その反応は果たして、喜んでいるのか、それとも怒っているのか。

 うん。わからん。

 オドリグイはあっさりと先の考えを翻した。どれほど触手を尽くしても、わかりあえない相手というのは、いるのだ。

 ナムルは槍を強く握りしめている。柔らかきものどもに比べれば動きの遅い相手とはいえ、これだけの数に攻撃されれば、無事では済まないかもしれない。ナムルが警戒するのは当然のことだった。

 だが、何となくだが。敵意は感じられない。そのように、オドリグイは判じている。

 もう一度、深々と胴を下げた。

 振動が収まってゆく。しずしずと棘持つものどもが動き、もとの整列状態に戻ってゆく。隣のナムルの身体から、緊張が解けてゆくのがわかった。

 ああ。あれはやっぱり、触手を打ち合わせてたんか。

 その舞を素晴らしいと思ったとき、マ族やミズ族は触手同士を打ち合わせて、舞い手に波紋を送る。それと同様のものを、棘持つものどもの行動に感じたのだ。

 そしてその勘は、どうやら正しかったようであった。

 通じたんか。そうなんか。

 つくられた波紋がオドリグイの体表に届き、沁み込んでゆく。それらは、オドリグイの中にある別のものをも震わせたように思われた。

 胴を上げたかったが、上げられなかった。今の顔を、体表を、ナムルに見られたくない。そう思っていた。

 あたしはオドリグイや。最上の舞い手、オドリグイや。これくらいは当然。そんな顔を見せるんや。

 胴を上げた。

 雄が寄ってこなくてもいい。いや、やっぱりそいつは困るけど、それでもこの場では、うちを尊敬してるこの娘の前では、堂々とした姿を見せるんや。

 使者の顔を取り戻したオドリグイが、目の高さで触手を合わせた。

「これが我らの集落で起こったことの顛末です。ものどもは、もしかしたらこの場所までも攻めてくるやもしれませぬ。避難を。そして、でき得るならば、我らと協力を」


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