第七十話 二つ舞
ナムルが加わり、脇を務める。ナムルには道中、この舞の動作と呼吸を伝えてあった。修練は足りていないはずだが、槍を上手く使い、長き殻どもに擬態している。広場で舞ったマリネの動きからも、幾分か盗み取ったようだった。
さすがやな、と内心思いつつ、細やかな動作で呼吸を伝える。すぐに合わせてきた。
三の触脚、五の触手。六の触脚、二の触手。それから六の触手舞。水を震わせ、波紋を刻む。
ナムルと相対した。
幻の槍で突く。ナムルが手に持つ槍で迎え撃つ。ここは殻持つものどもの恐ろしさを伝えねばならない。ナムルの勢いは少し強さに欠ける。
ひと動作を挟んで、同じ突きを繰り返す。今度は先ほどより鋭く。それで得心したようだ。鋭く強い動きが返ってきた。
回転。乱舞。意図的に舞の流れを乱す。戦いが激しいものであったことを見せつける。ナムルが必死で喰らいついてくる。
肉体的なことだけでいえば。戦士として鍛え上げられ、またマ族でもあるナムルの方が速く、強い。だが一つ一つの反応、繋ぎ。そして何より、動かすことより留めること。それらの技は、まだまだオドリグイに追いつくものではない。
技巧の不足を強靭さで補い、この雌の戦士は二つ舞を維持している。
いつまで保つかはわからない。だが、保ってもらうしかないのだ。
一頭で舞うこともこころの片隅で組み立てながら、オドリグイは舞いを繋ぐ。気付かれぬ程度に、ほんのわずかだけ速度を落とす。
棘持つものどもが舞を解さない、などという考えはオドリグイにはない。舞うことは、まず己との戦いなのだ。
そして何より。伝えることに触手を抜くことがどれほど恐ろしいことか。オドリグイはよく知っている。
誤りを伝えたら、あかんのや。
ナムルとの二つ舞を崩さぬように。すべてを出し切りつつ、なおかつナムルに合わせて舞を細かく整える。
長き殻どもの強さを見せつけて、終盤の舞へと移る。アカシが奇策を用いて、長き殻どもに強力な一撃を入れる。表現と動きの難しい部分だ。
果たして、ナムルの呼吸が一拍遅れた。
咄嗟に触脚での一歩を加え、ナムルに伝える。気付いたナムルは瞬時に合わせてきた。
オドリグイが突き込む。ナムルが受ける。
回りながら、水中を飛んだ。
ナムルの胴上から槍を突き入れる動作を入れると、ナムルはすべての触手を伸ばし、地に沈んだ。
槍を刺す動作のまま、オドリグイは動きを止めた。それが、舞納めの場面であった。




