表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
69/148

第六十九話 舞姫

 言葉はやはり通じない。ならばどうするか。

 オドリグイは視線で、ナムルに合図を送った。

 組んでいた触手を鋭く伸ばす。次いで、たん、だん、たんと拍子を刻んで触脚を踏み出した。

 触手を伸ばし、重みを遣って回る。中水で幻の槍を三本の触手で掴み、新たなるマ族の勇士、アカシに擬態した。

 ア、カ、シを意味する動きを取り込みつつ、槍を回し、突き込みながら円舞する。

 それは舞だった。

 言葉が通じない。ならば、オドリグイにできることは一つだ。

 言葉がだめならば、舞で伝える。

 舞により、そこにあった出来事を伝え、広める。それこそはまさに、舞い手の役割だ。相手が棘持つものだろうが、それは変わらない。

 槍を振るい、動作の一つ一つで、アカシという勇士の強さを語る。二の触手、三の触脚。定められたいくつもの約束ごとを複雑に組み合わせ、新たな舞い伝えを語ってゆく。

 墨などではない。この舞こそが、うちら柔らかきものどもの、原初の言語や。舞を習い、修練するうちに、オドリグイのうちには、そのような思いが募っていた。動きの一つ一つが、意志を伝える。思いを伝える。これこそが本来の。そもそもの、言葉なのだ。

 正しいのかどうかは、わからない。確かめるすべもない。だが、誰もが認めなくても。オドリグイはただ一頭、そう判じていた。

 だからこそ、舞ならば伝わる。そう、信じてもいた。

 オドリグイの名を冠するものには、他の舞い手にはないひとつの使命がある。それは、己の代で新たな舞をつくり上げることだ。今までになかった新たな舞を成し、それを後のうねりに、巡りに、舞い伝える。それが、オドリグイの名と共に与えられた使命だった。

 そしてオドリグイがつくり上げたのが。先に起こった、アカシと殻持つものどもとの戦いの一幕であった。

 舞うことで伝える。それしか、己にできることはない。またそれがため、この南方に自分が派遣されたに相違ないのだ。

 棘持つものどもは変わることなく整列している。だが中には、棘を細かく震わせているものもある。

 あくまで体表でしかわからない。だが、口上を述べていた時よりは、吸盤に訴えるものがあるように思えた。

 腹腔に、痺れが走っていた。これまで、マ族と、ミズ族と。それ以外では集落のうちにいるイワツノ族らの前でしか、オドリグイは舞ったことがない。最高の舞い手と認められ、オドリグイの名を与えられて、それ以後も研鑽を積んではきた。だが、それは何と狭い環であったのか。

 うちの生きざま、観とけや。触手の先に力を入れ直した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ