表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
64/148

第六十四話 締結

「決定は私が下す。控えておれ、ツクダニ」

 語気荒く族長が告げるが、若長は怯まない。その瞳に怒りはない。冷静な眼差しであるように、カルパッチョには見えた。

「おやじどの」

 諭すような口調で、ツクダニが告げる。

「おやじどのはもう、年老いて弱っている。己の触手を己で見てみろ。体表の色を見てみろ。いつくたばってもおかしくはないではないか」

 むう、と族長が唸るが、ツクダニは無視して続けた。

「おやじどのは近く死ぬ。それが次のうねりか、次の次のうねりか、それは俺にはわからん。だが、次の巡りは、疑いなく越えられんだろう」

 族長はむう、むうとだけ唸っている。アヒージョは体表を赤白させている。そしてカルパッチョは、いいぞもっとやれと思っていた。

「この先族民と生きていくのは、俺なのだ。だから、俺が決める」

 ここぞとばかりに、カルパッチョも割り込んだ。

「若長殿のおっしゃるとおり。確かにあたしが話しているのは、今の話です。だけど、今だけの話じゃない。その今を、次のうねりに、巡りに、どう繋げるかという、そういう話なんです。そして、それを決めるのは」

「その責を負うことができる者だけだ。だから、おやじどの。これは、俺が決めるのだ」

 二頭のワモン族が睨みあう。族長は身体を細かく震わせていたが、ついにがくりと胴を落とし、うなだれた。

「よいな」

 そう問いかける若長の言葉に、僅かに胴が上下する。

 それを了解と取ったのか。若長がアヒージョとカルパッチョの方へと向き直った。

「マ族の使者殿よ。マ族とワモン族の婚姻の儀、次期族長であるこのツクダニが承った。同盟の儀、ぜひとも、お願いしたい」

 カルパッチョが姿勢を正す。アヒージョもしぶしぶそれに倣う。そうしてお互いに胴を下げ、差し出した触手の吸盤同士を合わせた。

 族長が忌々しげにこちらを見ている気がしたが、気付かないふりをした。アヒージョも明らかに何事かを問い質したそうな視線を向けていたが、無視した。そんな視線を一身に集めるカルパッチョはといえば。全精力を使い果たして、もう、相手をしている余裕なんてなかったのだ。

 何でもいいからちょっと、休ませてよ。そんなことを思っていた。口には出さなかったが。

 ともかくも。こうして、両族の同盟は成ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ