第六十話 圏
沈黙が、場を支配していた。
ようやく口を開いたのは、族長だ。
「つまりマ族とワモン族を一つのものにせよ、と」
「はい」
「できぬ相談だ。我々では生き方が違いすぎる」
「すべてを一つにする必要はありません。生きる術を、一つにすればいいのです」
「互いの集落は、あまりに遠すぎよう」
「安らかに集落を営める場があればいいのです。その場を、圏をマ族とミズ族、ワモン族とでつくらないか。これはそういう話です」
「むう……」
考え方そのものを提示する。それがカルパッチョの採ったやり方だった。ワモン族の思考は内輪で凝り固まっている。そこに乗っかる限り、説得はあり得ない。そう考えていた。
融和はできない。ならば、ワモン族をその形のまま、もっと大きな圏の中に取り込む。それがカルパッチョの考えだ。
「ワモン族はまだ出会っていませんが。我々が対峙している殻持つものどもが、マ族を食い滅ぼし、その後もそこに留まるかどうかはわからないことです。止まらないとわかったときには、もう遅い」
「今ならまだ、防げると。そう思うのかね?」
カルパッチョはかぶりを振った。
「戦わないあたしにはわかりません。やつらの姿を見てもらうのが一番いい。けど、それからの決断では遅いんです。今でないと」
むう、と族長は再び唸り、考え込むそぶりを見せる。
アヒージョは驚きが先に立っているのか、怒鳴り出す様子はない。カルパッチョは待った。
「話はわかった。お主に理があることも、認めよう」
族長がようやくといったふうに言う。だが、その体色は重苦しいままだ。カルパッチョはこころを働かせる。考えつく限りのすべての可能性を予測する。どの触手を次に切り離すべきか。それを狙っている。
これが、メン族の娘の戦いだった。
「だがな。それでも我々ワモン族は、お主らマ族を信用できんのだ。吸盤を合わせる気に、なれんのだよ」
族長が続けた言葉はそれだった。それはカルパッチョではなく、アヒージョの方へ向けて発されている。
戦士たちが大物を狩ったときの気持ちというのは、こういうものなのだろうか。そのような思いを、カルパッチョは抱いていた。
捕えた。こころのうちだけで、カルパッチョはそう、確かめていた。




