第五十九話 閉塞
アヒージョが驚きと共に伸び上がった。
「なぜですか」
強い口調で問う。戦士の鋭い視線を受けてなお、族長は平然としている。それどころか、薄笑いすら浮かべていた。
「お主らが知ってのとおり、この地は、お主らが住んでいる地より貧しい。そしてこの地で我らは、何とか生き延びて来ているのだ。だがそれはな、生きていくということに、すべての力を使う、ということでもある」
つまり他に力を割く余力などないということだ、と付け足した。
「それにな」
ずい、と族長が身を一退り近づけた。
「正直なところ、お主らマ族が生き残ろうが滅びようが、我らはどうでもいいのだ」
ああ、とカルパッチョは嘆息した。
わかっていた。ワモン族がマ族に、いや、他の種族たちに抱いているのは好意でも敵意でもない。
それは、無関心なのだ。彼らの生は、彼らの中でもう、閉じてしまっているのだ。排他的に見えるのも、実際にはそのためなのだ。
カルパッチョはそのことを理解していた。だからこそ、この返答も、半ば予測していたのだ。
言葉を失い沈黙するアヒージョの隣で、今度はカルパッチョが胴を反り返らせた。
「考え方を、変えてみてはどうでしょう」
そう告げると、全員が彼女の方に視線を向けた。それらを受け止め、小さな身体を最大限に伸ばして、カルパッチョは声を張る。
「ここに来るまでに、集落を見ました。あたしがいた頃より、数が減っているように思う。ここでの生は、やはり苦しいのではないですか」
族長は黙っていたが、その息子が小さく頷いているのをカルパッチョは見過ごさなかった。
「今回のマ族の提案は、ただ単純に力を貸してほしい、ということではないと思います。それは、マ族と、ミズ族と、そしてワモン族がひとつになるということじゃないか、と。あたしは、そう思っています」
近づいていた族長が、もとの位置に座りなおした。
「何のために、そのようなことをする必要がある」
「決まっている。生きるためです」
カルパッチョはさらに声を継ぐ。
「マ族の集落のある場所から、このワモン族の集落のある場所まで。この地域すべてを、我々柔らかきものどもの地とすればいい。そうすれば、生き残れる道は、まだあります」




