第五十八話 会談
戦士に案内されて、カルパッチョたちは集落の中央にある壺まで移動した。
マ族やミズ族の集落に比べて、ワモン族の集落は簡素だ。それはほとんど、広場を取り巻くようにして壺が並んでいる、というだけに等しい。集落の周囲には岩壁も柵も築かれず、一見、無防備な印象を受ける。
それは、ワモン族自体が絶大な探知能力を有していることと共に、この集落の近辺に、タラバ族のような強力な種族がいないということでもある。
そして彼らは今でも、必要最低限の道具しか用いないのだ。
アヒージョも集落の様子を興味深げに見ていた。彼女にとっては、どれもが初めて目にする景色だろう。
戦士に続いて、壺の中に入った。
二頭の、身体がやや大きめなワモン族が座っていた。一頭は老頭で、もう一頭は若い。カルパッチョは両方に見覚えがあった。族長と、その壺息子だ。
向かい合って座り、胴を下げる。アヒージョもそれに倣った。
「カルパッチョか。久しいな」
「ご無沙汰しております」
以前より枯れて細った声色に聞こえる族長の声に、衰えを感じた。もちろん体表には出さない。
「まさかお前が、マ族の使者として訪れるとはな」
「見知ったものがいた方がいいと思って。正式な使者は、こちらのアヒージョです」
建前上は、そういうことになっている。
「マ族のアヒージョです。このたびはお会いくださり、誠にかたじけなく存じます」
族長が頷いて挨拶を受けた。
「で、話は、以前に攻めてきたという新たな種族の話かな」
「たこにも」
アヒージョは胴を上げると、朗々とした声でこれまでの顛末を語りはじめた。その間、カルパッチョは族長の顔色を窺う。大群が攻め込んでくる可能性がある、というくだりでようやく表情を少し動かしたが、それ以外は何も読みとれない。
「それで、要望は何だ」
聞き終えた族長が告げた。
「我々マ族との同盟を。あの種族が侵攻をはじめたならば、我々マ族とミズ族だけでは、到底止められませぬ。ぜひ、力をお貸し願いたい」
そしてもう一度、胴を下げた。
ふむ、と族長が声を漏らす。そうしてしばらく思案するようなふうを見せたあと、言った。
「悪いが、協力はできんなあ」




