第五十七話 ワモン族
しばらく歩くと、多くの壺が並んでいる岩場が見えてきた。
「見られているな」
それと同時に、槍を握り直してアヒージョが告げた。そうだろうな、とカルパッチョも思った。
道具を用いるのが得手ではないワモン族は、最も古い巡りの柔らかきものどもの姿を残しているといわれている。隠れ潜むこと、獲物をいち早く見つけること、素早く獲物を絡め取ることにかけては、最も長けている種族であるといってもよかった。
その性質からか、ワモン族はマ族やミズ族以上に実力主義で、かつ排他的な性向が強い。カルパッチョが馴染めなかったのも、その辺りが原因だった。
「来るぞ」
そう言って、アヒージョが槍の石突きを地に打ち立てた。その周囲に影のようなものが三つ、飛び出す。
二頭の周囲が、触手で囲まれた。どれもが白っぽい紋のようなものが散った体表。ワモン族のものだった。
「何ものだ」
正面に立つ一頭が告げる。低く押し殺したような声色だった。
「マ族の戦士、アヒージョ。マ族よりの使者として、ワモン族に会いに来た。長老殿に取り次いでもらいたい」
しばらく沈黙があったが、囲みが解かれた。
「ここでしばし待て」
言い捨てると、カルパッチョの目にはわからぬような速度でどこかへ消えた。アヒージョたち戦士には見えているんだろうか、とそんなことを思った。
誰もが無言で佇んでいる。恐ろしさもあって、カルパッチョはアヒージョにくっついている。やはりワモン族の雰囲気には馴染めない。
どれくらい経ったか、気が気でなかったカルパッチョには定かではないが、先ほどのワモン族の戦士が戻ってきた。
「少し前にも使者をもらったが、それに関係する話か」
「そうだ」
「そのことなら、こちらも警戒はすると伝えたはずだ、とのことだが」
「それとは違う話だ。取り次いでもらえるのか、どうか」
アヒージョは意外に気が短いらしい。
ワモン族の戦士が触手を畳んだ。
「とりあえず、それ以外のことであれば話を聞くだけは聞く、とのことだ。ついて来い」
戦士たちがゆっくりと泳ぎ出した。アヒージョとカルパッチョは一度目を合わせると、ワモン族たちの後に続いた。




