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えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
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第五十六話 旅路

 柔らかきものどもと長き殻どもがぶつかり合っている頃。

 東の丘陵を泳ぐ二つの影があった。

 ひとつは、丸く膨らんだ身体に八本の長い触手を持っている。そのうちの三本で、珊瑚から削り出した槍を握っている。

 その後ろにふらふらとついて泳ぐ影は、半分くらいの大きさだ。やはり丸く膨らんだ胴と八本の触手を持っているが、それらの触手はどれも短い。

 メン族の、カルパッチョだった。

 前を行くのはマ族の雌の戦士だ。アヒージョ、と彼女は名乗った。メン族はマ族ほど泳ぎが得意ではないらしく、先へと進むアヒージョの背中に、何とかくらいついているといった様相だ。アヒージョの側にもカルパッチョに対する気遣いはほとんど見られず、時折離れ過ぎていないか確認する以外は、特に速度を弱めたりする素振りを見せない。そういう態度を取られることには慣れっこのカルパッチョは、表に出しては文句の一つも言わず、ただただ追い縋っている。罵倒は腹腔のうちに溜め込むだけだ。

 アカシにまとわりついているカルパッチョへの、雌たちの水当たりは特に強い。あたしに不満をぶつけるくらいなら、あんたらもあたしみたいにまとわりつけばいいじゃない、と彼女からすれば思うのだが、そういう問題でもないようなのだった。悪い意味合いで、カルパッチョは目立つのだ。

 しかしながらも、こうして見捨てることなくついてきてくれるというのは、ありがたい。

 ここまで泳いでくる途中、一度、イワツノ族と思しきものに襲われかけた。だがアヒージョは槍を振るうと、難なくそれを撃退し、見事に仕留めてみせた。戦士としての腕と使命感だけは、疑いないのだ。

 彼女がいなければ。すでにあそこで、カルパッチョの旅は終わっていただろう。

 けどあのイワツノ族はあんまり美味しくなかったな、などと考えつつ、短い触手を駆使してアヒージョの後を追う。急がなければならないことは、疑いないのだ。

 丘陵を越えると、柔らかきものどもが好みそうな岩場に出た。

「待って」

 カルパッチョもさすがに声をかける。アヒージョが触手を止めると、岩場に降りて振り返った。

「何だ」

「そろそろ彼らの領域だと思う。あまり早く泳いでいたら、敵だと警戒される」

 アヒージョは暫く考えていたようだが、頷きを返し、離れずついて来い、と告げて歩き出した。カルパッチョも、それに続いた。

「そういうことには、詳しいのだな」

 歩きつつ、初めてアヒージョの方から話しかけてくる。

「まあね。旅ばかり、してきたから」

「そうか」

 会話はそれで途切れた。ワモン族の集落は、もうすぐだ。


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