第五十五話 問答
一うねりは何事もなく過ぎ、集落には束の間の平穏が訪れつつある。アカシは集落防衛のための策をいくつか考え、タコワサや小頭たちと相談を繰り返した。
長老がやって来たのは、族民たちが狩りから戻り、中うねりの食糧が配られた頃だ。
「最悪の場合を、考えておかねばならん」
そのように長老は切り出した。
集落は二区画につくられている。マ族の集落と、ミズ族の集落だ。現在、柔らかきものどもの生活圏はほぼミズ族の集落に移っていた。
「戦の決着によれば、次はマ族の集落を放棄せねばならなくなろう。そうなれば、我らの生きられる場所はミズ族の集落だけになる。そして、あちらの集落で、敵の攻撃から守りきることは難しかろう」
つまりは、このマ族の集落こそが、本当に最後の防衛線になるということだった。
だが、そんなことはアカシとて当然のようにわかっている。アカシだけではない。ここにいる小頭たち全員がそうだった。
長老が何を言いたいのか、考えた。
「滅びますか」
たどり着いたのは、そのことだ。
「滅ぶな」
気負うことなく、長老は言った。逃げることも考えておけ。言外に、そう伝えているのだった。
「どちらにせよ、滅ぶのは同じやもしれんぞ」
長老と壺兄弟であるウスヅクリが横から口を出した。
「それでも、一うねりでも二うねりでも、族民を生きながらえらせる方策を考えるのが、私の役割よ」
「たこにも、たこにも」
二頭とも触手で漏斗の下を撫でながら、頷き笑いあっている。同じうねりに同じ房から生まれたものは似ている部分があるとはいうが、確かにこの二頭の老頭の所作は似通ったところがあった。
「我らの生きられる場所が、他にあるでしょうか」
「あのメン族の小娘に言われたからだけで、使者の派遣を決めたわけではない。我らの生き残る巡りがあるか否か。それは、あやつらにもかかっておるだろうよ」
水の天井を見やる。カルパッチョたちは、どうなっただろうか。彼女たちの旅路に、アカシは暫し思いを馳せた。




