表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えびせん Good Morning,MARS  作者: 大嶺双山
第三幕 戦
54/148

第五十四話 高楼夢

 戦士へ捧げる舞は、マリネが務めた。

 勇士タコヤキを見事に舞いきったマリネには、すでに舞の名手であるとの評判が集落内に広がっている。狩りの動きと舞の動きは馴染むものがあるのか、もとより戦士の中には舞の上手なものが多い。雌の戦士には、それが顕著だ。その中でもマリネの舞は、抜きん出ていた。

 もともとはあれほどの名手ではなかったと思う。ただあの、皆が戦うと決めたときの、あの舞。あのとき確かに、マリネはその身に勇士タコヤキを宿した。そしてあのうねりより、マリネはそれまでとはまったく違う舞を見せるようになったのだ。

 そういう不可思議な力がはたらくときが、環にはあるのだ。

 岩や珊瑚の積まれた高楼に戦士の死骸と、拾い集めたクロトラやクルマの脚、戦士たちの触手が載せられる。ほとんどすべての族民が、その前に集まっていた。

 大クロトラの名は、正式にクルマ族と改められた。マ族とミズ族のように、敵もいくつかの種族が協力しあっている。そのことは、多くの族民を驚かせた。タラバ族相手の戦とは違うということが、ようやくひたひたと、戦士でない族民たちにも伝わってきているようだった。

 舞がはじまった。皆が踊るマリネを見つめている。アカシもその目でしっかりと、マリネの動きを追っていた。

 色とりどりの海藻と珊瑚を身に付けたマリネが、大魚の骨を組んでつくった杖を振る。触脚を踏み出し、回り、そうしてまた、一振り。誰も一言ももらさず、それを見ている。

 環を司るなにものか。それをその身に降ろしているように、アカシには思えた。

 長い舞が終わった。

 マリネの一礼と共に、高楼が崩される。匠頭たちがタラバの甲羅に戦士の死骸などを載せ、運び出していった。これから切り分けられ、族民たちに供されるのだ。

 胴を上げたマリネと目があった。瞳が常にない色に輝いている。そのように感じられた。

 アカシはその視線を、まっすぐに受け止めた。

 己の中に込み上げてくるものがあった。マリネが欲しい。マリネの力を、己の中に宿したい。それはそんな、いわく言い難い感情だった。

 マリネの方から先に、視線を外した。去っていくその背中を、目が追っていた。

 突如湧き上がったそれを、必死に押し殺した。そうするうちにそれは、腹腔に溶け、触手の端にまで沁み渡り、そして消えて行った。

 正気に戻ったとき、広場はすでに、半分ほどの族民が立ち去っていた。

「どうしました、大頭」

 心配そうに尋ねてきた副官に何でもない、と返し、アカシも歩き出した。

 先ほどの感情を反芻する。だがそれはすでに、己の中のどこにも残っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ