第五十四話 高楼夢
戦士へ捧げる舞は、マリネが務めた。
勇士タコヤキを見事に舞いきったマリネには、すでに舞の名手であるとの評判が集落内に広がっている。狩りの動きと舞の動きは馴染むものがあるのか、もとより戦士の中には舞の上手なものが多い。雌の戦士には、それが顕著だ。その中でもマリネの舞は、抜きん出ていた。
もともとはあれほどの名手ではなかったと思う。ただあの、皆が戦うと決めたときの、あの舞。あのとき確かに、マリネはその身に勇士タコヤキを宿した。そしてあのうねりより、マリネはそれまでとはまったく違う舞を見せるようになったのだ。
そういう不可思議な力がはたらくときが、環にはあるのだ。
岩や珊瑚の積まれた高楼に戦士の死骸と、拾い集めたクロトラやクルマの脚、戦士たちの触手が載せられる。ほとんどすべての族民が、その前に集まっていた。
大クロトラの名は、正式にクルマ族と改められた。マ族とミズ族のように、敵もいくつかの種族が協力しあっている。そのことは、多くの族民を驚かせた。タラバ族相手の戦とは違うということが、ようやくひたひたと、戦士でない族民たちにも伝わってきているようだった。
舞がはじまった。皆が踊るマリネを見つめている。アカシもその目でしっかりと、マリネの動きを追っていた。
色とりどりの海藻と珊瑚を身に付けたマリネが、大魚の骨を組んでつくった杖を振る。触脚を踏み出し、回り、そうしてまた、一振り。誰も一言ももらさず、それを見ている。
環を司るなにものか。それをその身に降ろしているように、アカシには思えた。
長い舞が終わった。
マリネの一礼と共に、高楼が崩される。匠頭たちがタラバの甲羅に戦士の死骸などを載せ、運び出していった。これから切り分けられ、族民たちに供されるのだ。
胴を上げたマリネと目があった。瞳が常にない色に輝いている。そのように感じられた。
アカシはその視線を、まっすぐに受け止めた。
己の中に込み上げてくるものがあった。マリネが欲しい。マリネの力を、己の中に宿したい。それはそんな、いわく言い難い感情だった。
マリネの方から先に、視線を外した。去っていくその背中を、目が追っていた。
突如湧き上がったそれを、必死に押し殺した。そうするうちにそれは、腹腔に溶け、触手の端にまで沁み渡り、そして消えて行った。
正気に戻ったとき、広場はすでに、半分ほどの族民が立ち去っていた。
「どうしました、大頭」
心配そうに尋ねてきた副官に何でもない、と返し、アカシも歩き出した。
先ほどの感情を反芻する。だがそれはすでに、己の中のどこにも残っていなかった。




