第五十一話 誤算
もう一つ、アカシたちにとって困ったことがあった。
死骸がすべて、持ち去られていた。
マ族のものも、長き殻どものものも、すべてだ。折れた脚やもげた触手こそ転がっていたが、身体そのものは一つ残らず、敵の軍勢が回収していった。
マ族たちにとって、大きな誤算だった。
マ族にせよタラバ族にせよ、戦というのは狩りの延長線上にある。つまるところは、獲物を獲るために攻め、獲物にされないために守るのだ。戦で出た死者はすべて、貴重な食糧だった。
戦で死んだときに限り、マ族も同朋を食べる。死んだ戦士に、戦士のための舞を捧げ、その後に生き残った者たちでその肉体を分け合うのだ。そうすることで、死んだ戦士たちの力の一部が、食べた戦士たちの中に宿る。そのように、考えられている。
タラバ族は同朋を食べない。彼らにとって獲物は自らで狩るものだからだ。死者は水と砂に還す。それが彼らの弔いだ。
だから長き殻どももそうなのだろう、と、勝手に思い込んでいた。
だが彼らはすべてを持ち去っていった。つまりは、マ族の側は獲物を一切手に入れられなかったということだ。
唯一残っていたのは、壁の上で死んだ戦士の身体だけ。それだけだった。
「こいつはまずいですな」
「落ちた脚や触手を拾い集めさせよう。少しは、ましだろう」
集落に多少の食糧は溜め込んである。だが自由に漁に出られない今、うねりを経るごとに厳しい状況になるのは明らかだ。
困ったことになった。そう思った。
戦士たちに指示を出しながら、戦場跡を歩く。積み上げた岩壁の一部が破壊されているのを見つけた。崩せるかどうか、敵が試みたのかもしれなかった。
「ここでもう一度、食い止められると思うか」
タコワサとウスヅクリに問う。
「やれと言われるなら、やりますぞ」
ウスヅクリは笑みを浮かべて言ったが、タコワサはかぶりを振った。
「大事なのは、敵の速度を落とすことでしょう。残った銛の投射だけでは、難しいかと」
アカシは頷いた。やはり、同じ触手で防衛することは難しい。そもそも、敵が同じ攻め方をしてくるとは思えないのだ。
どうするべきか。答えは、なかなか出なかった。
「……やつらはもう一度、攻めてくると思うか」
その答えはわかっている。だが聞いてみた。
今度は二頭とも、頷きを返した。




