第五十話 戦傷
「十頭やられましたわい」
ウスヅクリがそのように報告してきた。
戦が終わっても、戦士たちの為すべきことが終わったわけではない。全員を集め、被害を確認する必要があった。
集落から雌の戦士たちを呼び寄せ、哨戒の任に就かせる。そうして再侵攻を警戒しつつ、アカシたちは戦後の処理を行っていた。
十頭の戦士がやられていた。ほとんどが、軍勢にぶつかられた中央に配置されていた者たちだ。衝撃を受け止め、触手を切り飛ばされながらも盾を倒さずに支えていた戦士もいたということだ。
槍の隙間を越えられ、捕まって盾の前まで引き摺り出された戦士もいた。その戦士は前衛の大クロトラたちに、胴から貪り食われた。
壁の上に配置していた戦士たちからも、一頭死者が出ていた。全身を酷使してタラバの銛を投げ続けたことで、臓腑が破れたのだ。あの大銛をマ族の身で投げ続けるというのは、そういうことだった。
ウスズクリが報告する死者の中に、アマズガケの名があった。穴が開きかけた盾の隊列に自ら飛び込み、その身体をもってして盾としたのだという。
小頭の中では、最も若い戦士だった。口が軽いが身も軽く、どの戦でもいつも鋭い槍捌きを見せていた。
どのような窮地や劣勢の場でも周囲を和ませ、明るくする。そんな得がたい資質を持った小頭だった。
惜しい戦士をなくした。そう思った。
盾と槍は半分ほどが破壊されていた。匠頭たちには余分をつくらせてはいるが、さすがにこの損耗には追いつかない。数が揃うまでには、いくつかのうねりを経る必要があるだろう。
「タラバの銛はどうだ」
タコワサに尋ねた。
「回収したぶんとあわせて、こちらも半分は、使えそうです。三斉射程度ならば、何とか」
「足りんな」
タコワサが頷く。敵が何も学ばず、同じ攻め方をしてくるとは思えない。次は疑いなく、飛び道具への対処を行ってくるだろう。今回の戦い方を見ただけでもわかる。あの敵は、明らかに高い知を持つ種族であった。
「上手くいかぬことだらけだな。何もかも」
「いやいや、こうして生き残って、次の策を考えられるだけでも幸いやもしれんぞ、大頭」
「ご老のおっしゃるとおりだと、私も思います」
確かに、ここで滅びていた巡りとて、なかったわけではないのだ。




