第五話 イワツノ族
集落から珊瑚山までは一うねりの道のりだ。
半ば辺りで低いところを泳ぐ魚の群れを狩り、食糧を手にした以外には、寄り道もせず山まで向かってきた。山を拠点に、探索を進めるつもりだった。
使役するイワツノ族に曳かせてきた大壺を下ろさせ、拠点を造営する。横向きに設置した壺に、部下たちが手際よく偽装を施し、食糧や武具を運びこんでゆく。仕事を終えたイワツノ族は、脱力し、白珊瑚の上に伸びていた。
イワツノ族はタラバ族によく似た甲殻とはさみを持つ一族だ。力が強く、その背に大きな殻を背負って、堅い八本の脚で縦横無尽に長距離を走る。臆病で戦いには不向きだが、その特性から荷物の運搬には重宝していた。
その昔、イワツノ族は大きな勢力圏を築いていたといわれている。だが今や彼らの一族は各地に散り散りになり、今ではこうして各部族で荷役として働いている。
今回連れてきたイワツノ族はツボヤキという名の老頭で、アカシとの付き合いもそこそこに長いイワツノだった。
役目がら、アカシとツボヤキとはこうして行動を共にすることも多い。普段はそうそう喋る方ではないツボヤキではあるが、野営の際などに話をしてみれば以外と雄弁でもあり、経験に裏打ちされた面白い話をいくつも知っている。
いつのことだったか。現状を気にするふうでもないイワツノ族の生き方を疑問に思ったアカシは、一族を復興したくはないのか、とツボヤキに問うてみたことがある。
そのときツボヤキは、何とも言えない顔で笑って答えた。
「わしらはもともと、横の連帯が少ない一族でしてな。確かに集落のようなものは持っておりましたが、いい狩り場が見つかったとか、大きな殻が見つかったとか聞けば、誰もかも気ままにふらふらと出ていきおる。そうして、そのまま帰ってこないこともしばしばでしたわ。今はこのようにあちこちの集落でお役目をいただいて。まあ形は変わりましたが。やっとることは変わりませんな。今も。昔も」
殻を背負い移住する彼らにとって、一族というのはさほど重要なものではないのだと、アカシはそのとき知った。そういう生き方もあるのだ、と知ったのだった。
ともかくも拠点を打ちたて、アカシたちは探索をはじめた。そうしてアカシは今、山の頂上にいる。
波は相も変わらず強い。眼下に広がる海草の森が怪しく揺れている。
このどこかにいる。そんな予感が、消えることなく渦巻いていた。
「タコワサ」
副官を呼ぶ。タコワサが一歩近づいた。
「あの森を探索する」