第四十五話 群れ
アカシの無理な注文に困ったゴマミソアエが考えついた妙案が、使い道の難しいタラバ族の脚を使うことだった。
時折狩れるタラバ族の、肉を採ったあとの甲殻は、大変貴重なものだ。その甲殻は様々に加工され、甲羅は集落の防護や壺の補強に、はさみは刃物や砂掘り、甲に使われるなどする。だが、一頭から六本、節で切り離せば十二本も採れる細長い脚は、使いどころが難しかった。
もちろん槍や銛の素材としてはこれ以上ないものだ。だが、その脚はマ族の身体にはあまりにも大きすぎ、威力はともかく、マ族の戦い方にはそぐわないものになってしまう。これまでは、そうだった。
だがその脚が、このクロトラ族との戦いでは使えると、ゴマミソアエは考えたのだ。
そして、タラバ族の脚の先を削っただけの簡素な銛が、わずかなうねりで大量に用意された。それが、壁の上に積み上げられているのだった。
指揮をタコワサに任せて、アカシは壁を滑り降りた。壁の切れ目となっている大通りには、ウスヅクリを中心とした小頭たちの指示で、守りのための軍団が編成されている。全員が重い貝や珊瑚の甲を纏い、いままでのものよりはるかに長い槍や銛を抱えている。マ族の戦士にはこれまでほとんど見られなかった重武装だった。
最前面に立つ戦士たちは身体の大きなものばかりを選び、槍の代わりにタラバの甲殻でつくられた大盾を持たせている。それらで、密集した隊列をつくらせていた。
何もかも。どれもこれも。新たな試みばかりだった。
先頭の教えも、舞の教えもない。正しいと導いてくれる者もいない。だが、これでなくては支えられない、とアカシは感じていた。
不安がないわけではない。だが、これまで通りの戦い方では勝てぬことだけは、わかっていた。
あの突進だ。あの突進だけは、何としてでも食い止めねばならない。
森の中で見た光景がよみがえる。太く厚い海藻を容易くなぎ倒し、前を塞ぐ何があろうともお構いなしに突き進む。侵入を許せば、集落は瞬く間に壊滅するだろう。
あの集団性こそが、タラバ族とクロトラ族の一番の違いだ、とアカシは判じている。タラバ族は強い。だが、その強さはあくまで個々の武であって、集団としてのそれではなかった。だからこそ、非力な柔らかきものどもにも抗しうる触手があったのだ。
だが長き殻どもは、個としての強さを持ちながら、それに驕ることなく、ああして群れで行動をしている。これこそが、何よりも恐ろしいことなのだ。
その集団が今、水煙の向こうに迫っていた。堅い甲殻を纏った細長い巨体が、身を寄せ合い、一つの塊となって、集落へと向かってくる。その突進力を、たこに弱めるか。そのための策であった。




