第四十三話 進撃
あの恐ろしい出来事があって、フナモリとは一時的にはさみを結んでいる。だが、いつかあのイセ族を食ってやりたい。心のうちで、そう考えていた。
「部隊を編成しよう。いいかね」
図るようにそのイセ族が問うてくる。二つの飛び出た眼は、すべてを見透かすような色をしている。
苛立ちを、抑え込んだ。
「いいだろう。うちからも、クロトラどもを出す」
エビチリ、と、クロトラたちの族長を呼んだ。黒縞の甲殻を纏った老頭が傍にやって来る。フナモリの前で、戦のための部隊を整えるよう指示を下した。
「では、次のうねりで、いいかね」
「いいだろう」
脚を軽く合わせて、別れた。
その背を見送る。この多くある長き殻どもの中で、イセ族はフナモリ一頭、オマール族はパエリア一頭だ。
つまり、種族としては、すでに死に向かっているといっていい。
渓谷にいたときから、オマール族の数はすでに少なかった。もともと多くは増えぬ種族であるが、クロトラたち小型の種族が増えすぎたために、数を減らしたのだ。
それが、あの恐ろしい光の落下で、半数以上が死滅した。そして、渓谷から外に出る過程でやはり、多くの同朋が死んだのだ。
パエリアが今生き残っているのは、同朋の誰よりも強靭で、冷酷で、競争に長け、手段を選ばず、そして運がよかったからに他ならない。
ここまでは来た。だが、ここがオマール族の終焉の地だ。そのことを、パエリアは理解していた。パエリアとつがいになれる者は、もういない。愛を交わせる同朋は存在しない。
ならば。
「ぜんぶまとめて、愛してやるさ」
タラバの殻を吐き捨てると、牙を剥いて笑みを浮かべた。
巨体を揺すり、群れへと向かう。部隊の頭たちに、次々と命令を下す。
砂浜に散っていたものたちが蠢き、一つに集まりはじめる。
「狩りのときだ、戦士ども」
パエリアの吠え声が、砂浜に轟く。
進撃が、はじまった。
(第二幕 完)
第三幕「戦」に続く。




