第四話 説得
アカシはマリネを見据え、告げた。
「だめだ」
「なぜだ!」
「俺と長老の判断だからだ」
マリネが槍を突き出した。その先には怒りがこもっている。
「さらわれたスミソアエは、石や珊瑚を削り出す名人だった。この槍の穂先も、彼女が作ったものだ」
「知っている。お前と彼女が、友であることもだ」
「ならば連れて行ってくれ。私は彼女を助けたい!」
マリネが詰め寄ってくる。だが、譲る気はなかった。
「マリネ。これは大頭としての命だ。お前は連れて行かない」
マリネが歯を食いしばる。明らかに納得はしていない。だが、今や大頭であるアカシの命に、ただ一介の戦士であるマリネが逆らうことはできない。大頭という役目は敬われ畏れられてしかるべきだ。多くの族民は、そう思っている。普段の物言いだって、アカシが気にせず、周囲が二頭の関係を知っているからこそ許されているに過ぎないのだ。
アカシは言葉を継いだ。
「マリネ。この集落を守ってくれ。何が起こるか、まだわからぬ。守る者が必要だ」
納得させるために考えた言葉であったが、それは事実であった。ともがらのことは、まだ何もわかっていない。怠らず警戒を続けるものも、また必要なのだ。
マリネは集落の雌子たちにはよく慕われている。任せるには、絶好の戦士でもあるのだ。
マリネを突き放す。抵抗はなかった。
「わかった」
しばらく考えたのち、マリネが答えた。それでいい、とアカシは思った。
マリネが再び槍を突き出す。その穂先を、己が槍の穂先で打ち鳴らした。
マリネが去っていく。その後姿が、干狩りをしている雌子どもへと近寄っていった。一頭一頭に声をかけ、浜を歩いてゆく。そのまま、巡回に出るのだろう。
槍が震えている。彼女の気持ちを受け取ったのだ、というしるしがアカシの身のうちへと伝わってきた。
全軍に声を掛ける。集落を発った。
壷の並ぶ大通りが背後に消えていく。
守らねばならない。そう思い定めた。