第三十九話 旅立ち
使者が派遣されることになった。
長老の指示により、三頭の使者が選ばれた。
言葉の通じぬ棘持つものどもの領域には、舞の上手なミズ族が。
どこにいるか定かでないケンサキ族の探索には、狩りに慣れたマ族の戦士が。
そして、ワモン族への使者にはメン族のカルパッチョが。
カルパッチョと舞上手のミズ族には、戦士が一頭ずつついている。すべて雌の族民だった。
もしも彼女たちが戻ってくるまでに集落が攻められ、滅ぼされたとしても、彼女たちだけは生き残ることになる。そこまで見越しての選出なのだとアカシは思い当たった。
もしかすると、カルパッチョはすべてを目論んだ上で、志願したのかもしれないと思った。だが、それでも構わない。生きることへの意地汚さ、嫌らしいほどの計算高さは、彼女の強みだ。
いざ戦がはじまれば、カルパッチョにできることなど何もない。彼女の戦いは、そういうものではないのだ。
大頭として、三組の旅路を見送った。部下である戦士たちに、一言ずつ声をかける。
「大頭を、好いておりました」
ケンサキ族の捜索に向かう雌戦士が、そう返してきた。
咄嗟に言葉が出ず、そうか、とだけ絞り出した。
「わたくしが戻った際には、これ以上の想いを募らさずに済む決着がついていることを、願っております」
「貴様らは、いらぬことばかりを言う」
それは、笑って言うことができた。帰還を楽しみにしている。そう付け加えた。
部下のすべてと、槍の穂先を打ち合わせた。
雌たちが旅立っていった。その背が波の向こうに消え行くまで、アカシたちは見送っていた。
カルパッチョとは、最後まで何も、語らなかった。
声を掛けなかったことが、力になる。そんな気が、なぜだか、していた。
タコワサを連れて訓練場に戻る。ウスヅクリがカニカマに稽古をつけていた。
カニカマはタラバ族の甲羅でつくった甲と、脚からつくった棒を身につけている。はじめにそれをつけろと言われたとき、カニカマは怒り狂い、ウスヅクリにはさみを振り上げた。そしてすぐさま、打ち倒された。
それで怯むカニカマではない。だが、そのままでは敵わぬことを、ウスヅクリは何度も見せつけた。
それから、あのふてぶてしいタラバの若者はウスヅクリに、渋々ながら従っている。




