第三十八話 種族
「あたしは、いくつもの集落を渡り泳いできました。そうして追い出されるたびに、思ってきた。種族なんて、なければいいのに。集落なんて、なければいいのに、って。ここにあるすべてが同じ種族で、一つの大きな集落だったら、よかった。だったらあたしも、あちこち追いやられることもなかった」
カルパッチョが胴を下げた。
「多くの種族がひとつにまとまることは、あたしの願いです。そしてこれは、その機会だと思う。どうか。どうか、触手を伸ばしてください」
カルパッチョはすべての触手をつけ、胴を下げ続けている。その隣で、アカシも倣った。
「長老。俺も、カルパッチョの言うことには頷くべきことがあると思います。今は、他の種族の間で諍いをしている場合ではない。それは確かです」
「胴を上げよ」
二頭は胴を上げた。長老の表情は、厳しいもののままだ。
「種族の岩壁を取り除くのは容易いことではない」
「承知しております」
「我らは生きるためには食わねばならん。タラバ族でも、ケンサキ族でも、ときにはワモン族であってもだ」
「承知しております」
「それでも今生き残るためには、必要だというのだな」
「はい」
アカシとカルパッチョの声が重なった。
「わかった。同盟の使者を送ろう」
できることは、すべてやらねばなるまい。そう呟いて、長老は立ち上がった。
「カルパッチョよ」
長老がメン族の娘を睨んだ。
「お前には、ワモン族への使者を引き受けてもらう。できるな」
「もとより、そのつもりで来ました」
長老が頷いた。
「カルパッチョよ。我らすべての種族は、食い合う定めだ。この環は、そのようにできている。だが、それに抗うというのなら」
触手を大きくひるがえした。
「足掻いてみせるがよい。その先に何があるのか。私も見てみたいものだ」
長老が壺を出てゆく。使者を送る手はずを整えるのだろう。
その後ろ姿に、二頭は改めて胴を下げた。




