第三十七話 集落
カルパッチョと共に長老の壺に赴いた。
アカシとカルパッチョという取り合わせに長老はやや顔をしかめたが、二頭を招き入れてくれた。
「して、何の相談ごとだ」
多くの種族と協力するべきだ、というカルパッチョの意見を、アカシは代弁した。
アカシの知る限り、マ族とミズ族の周辺にいる大きな種族は、マ・リネリス南岸に住んでいたタラバ族、東に住む八本足のワモン族、南の草なき浜に細々と生きている「棘持つものども」、そしてそれらの地域を巡っているケンサキ族。それですべてだった。
草なき浜を越えた先には見たこともない他の種族が住んでいるらしい、とは聞いている。他の地域にも、様々な種族が生きるための集落を構えているだろう。だがアカシが知っているのはそれだけであり、他のマ族も同様だった。
「それらの力を合わせることができれば、立ち向かうことができるやもしれません」
長老は触手を組んでいる。
「私も考えなかったわけではないのだ、アカシ。ワモン族には、すでにクロトラ族のことを知らせている。だが、今のところ返答はない。棘持つものどもには、言葉が通じぬ。そしてケンサキ族は、今どこに集落を構えているか、わからん」
アカシは頷き、隣をちらりと見た。明らかに緊張で固まっている。背中を強めに叩いてやった。
せき込んでから、ようやくカルパッチョは口を開いた。
「し、使者を送るべきです。各種族に」
姿勢を正す。
「つ、伝わるかどうかはわかりません。でも、その努力をするべきです。こちらから、触手を伸ばしてみるべきです。もしかしたらそれで、変わることがあるかもしれない」
そこまで言って、息を吐いた。
「この集落に来て、驚いたことがありました。マ族とミズ族が、まるで一つの種族のように、協力して暮らしている。いくつもの種族が入り混じっている集落は他にもあったけど、これほど馴染んでいる集落はなかった」
「それは、生きるためにそうするしかなかったからだ」
「だったら、今もそのはずです。生きるためなら、できるはずです」
いつしかカルパッチョの瞳は、まっすぐに長老を射ぬいていた。




