第三十六話 ケンサキ族
ケンサキ族はマ族らと同じ「柔らかきものども」であり、似たような姿かたちをしてはいる。だが、その生態はまったくといってよいほど違うものだ。
赤く丸い胴体ではなく、白く尖った胴体。それがケンサキ族の特徴だ。そして、マ族と同じように触手を持つ。さらに何と驚くべきことに、彼らの触手は八本ではなく、十本なのだ。どの同朋たちでもありえない、驚嘆すべき本数の触手を操る者たち。それがケンサキ族だ。
ケンサキ族は、器用な一族である。十の触手のうち二本が特に長く、それを駆使して様々なものをつくり出す。ミズ族と同じく、周囲のものを加工し、道具とすることに長けている。
だがその性向は、ミズ族とはかけ離れている。まず、彼らは壺を用いない。定住せず、環を巡りながら生活する。そうして様々なものを拾い集めては、それで道具をつくり出せるか試すのだという。
そしてもうひとつ。ミズ族は一頭の匠頭が槍から銛、刃物から肉入れまで様々なものを幅広くつくり出すが、ケンサキ族の匠頭は、一頭が己の気に入ったひとつのものを、生まれてから死ぬまでつくり続けるのだという。
実際にそうなのかどうか、アカシは知らない。姿を見たことさえ、一度しかない。それほどに行き来がないのだ。
気難しい種族だと聞いている。マ族の側から何度か、交流を申し入れたことがあるはずだ。だが、すべて断られたということだった。
探求し、ただ己の触手を研鑽することだけにすべてを注ぐ。そういう種族であるのだろう。
「協力できるのか」
「わからないよ、やってみなくちゃ。でも、やってみるのは、悪くないでしょ」
確かに、できることはすべてやっておくべきだった。
「あたし、みんなの印象悪いからさ。アカシから長老に、言ってくれないかな」
アカシは暫し考えて、頷いた。
「わかった」
槍を持ち、壷を出た。歩き出したアカシの後ろから、カルパッチョがついてくる。
「お前も来るのか」
「うん。あたしから、言いたいこともあるし」
「だったらすべて自分で言えばいいだろう」
「壷の前で追い返されるよ。あたしだけだったら」
そんなことはない、とは言えなかった。奇妙な論調を展開するカルパッチョは、長老たちに敬遠されている。
一つにまとまることは難しいものだ、と、アカシは密かに息を吐き出した。




