第三十三話 小頭たち
「大頭は雌に弱いですからなぁ」
しみじみと言ったのは、小頭の中でもお調子者のアマズガケだ。
訓練の合間の休憩のときだ。小頭たちが円座をつくって休んでいる。その輪の中にアカシもいた。
アマズガケを睨みつけるが、そのようなことで怯む雄ではない。タコワサも、小頭たちの中で厳然たる発言力を持つウスヅクリも、アカシの方を見て笑みを浮かべている。アカシは溜め息を一つ吐き出して、弁解を諦めた。
「これからは俺が守ってやる、くらいのことは言ってやればよいのです。そうすれば、重荷は下ろせましょうぞ」
ウスヅクリがいとも簡単そうに言い放つ。それができていれば、アカシもこのうねりまで苦労はしていないはずだ。
「そんなことを言えば、あいつは怒り狂って俺を殴るだろう」
「殴られてやればよいのです。それで前へ進めることとてありましょう」
巡りの功か、ウスヅクリの言葉には含蓄があるようにも思えて、アカシは触手を組んで唸った。
「それで、何とかなるのか」
「さて、最後は互いの問題ですからなぁ」
「他頭事だな、貴様ら」
「実際、他頭事ですからな」
歴戦のつわものたちは飄々としている。小頭の半分以上はアカシより先生まれだ。こうした経験の差では、どうしたところでかなわない。
「それよりメン族の、ほれ。あの小さな娘とはしっかり吸盤を切っておくのですぞ。年頃の娘は、嫉妬深いですからな」
「いや、雌というのは年に関係なく嫉妬深いものですぞ、ご老」
「確かに、俺の妻も、いまだに俺が雌と触手を絡ませるのを許しませんからな」
「そりゃお前が悪い。そういうのは、誰も見ていない岩場を見つけてするものだ」
「おいらはやっぱり、色んな雌を渡り泳ぐ方がいいなあ」
「雌どもに銛を持って追い掛け回されたこと、もう忘れたのかアマズガケ」
カルパッチョとはそういう関係ではない、というアカシの言葉は、あちらこちらへと飛んだ話題にかき消された。アカシはまた一つ、盛大に溜め息をついた。
わかっている。こんな言い方ではあるが、小頭たちはアカシを心配してくれているのだ。気を遣ってくれているのだ。
彼らがいるからこそ、自分が大頭などをやっていられる。アカシはそれに、応えねばならなかった。




