第三話 マリネ
武装した十八頭のマ族戦士を引き連れて、アカシは集落の中央街道を進んだ。この十八頭にアカシと副官のタコワサを入れて二十頭になる。
中央街道の左右には大小の壷が並び、その軒先では族民やミズ族の商頭が硬石や貝殻、海藻や干草を商っている。遠景の砂浜では、干狩りをしている雌子の姿も見えた。
集落の営みを眺めながら、北門へ向かう。北門の前に戦士立ちしている族民の姿を見つけ、隊を止めた。
槍を持ち、胴に巻貝を被っている。その顔に、見覚えがあった。
「マリネ。何をしている」
声を掛ける。マリネと呼ばれた雌は、貝の下から胴一つぶん背の高いアカシを睨みつけている。
「私も行く」
口から出たのは、予想通りの言葉だった。
「だめだ」
アカシは拒否した。今回の出陣は、すべてを雄の戦士で固めている。これは長老とアカシ双方合意の上での判断だった。
本来マ族は雌雄の別なく狩りをし、戦にも赴く。雌の戦士が雄の戦士に劣っているというものはなく、それらはひとしく、狩りと戦いの技だけで序列がつけられている。本来なら、確かな力を持った雌の戦士であれば帯同しても構わないものだ。
だが現在、状況は変わっている。
集落内での雌の数が、減少の一途を辿っているのだ。
原因はわからない。だがこれ以上雌を減らすような行いは避けるべきだというのが、長老とアカシの共通した思いだった。
マリネは優秀な戦士だ。そのことはアカシも知っている。だが今回の探索に連れて行くわけにはいかなかった。
「私の言うことが聞けないのか! アカシのくせに生意気だ!」
アカシとマリネは同じ房から生まれた壷兄妹である。幼い頃より勝気だったマリネは、昔は虚弱でひょろ長かったアカシを無理矢理連れまわし、格好の遊び相手としていた。長じるにつれ、アカシの身体は大きく、強靭になったが、二頭の力関係だけは、いまだに幼い頃のままであったのだ。
アカシの苦手意識を知ってか知らずか、今でも時折マリネは、こうして己の意見をごり押ししようとする。厄介なことだった。