第二十八話 収穫
体液が激しく噴き出し、槍とアカシの体表に飛び散る。だがアカシはひるむことなく、力をかけ続けた。
脚を振り回して、化け物が暴れる。だがそれは次第に弱弱しくなり、ついに動きを止めた。
アカシは頭部から槍を引き抜いた。化け物はもはや、痙攣以上の動きを見せない。
化け物の背から飛び降りる。身につけていた海藻の甲が引き裂かれているのに気付いた。おそらく振り回されたはさみか脚がかすったのだろう。タラバ族に匹敵する力だった。
やはり容易くはいかぬか。アカシは呟いた。
この戦いで得られた収穫は大きい。森で遭遇したものとは違った種ではあったが、彼我の戦力差を感じ取ることができた。この小型ならば、三頭一隊の戦い方で討ち取れる。経験上、どの種族でも大型になるほどその数は少ない。化け物たちがいったいどれほどの数かはわからないが、まったく牙が立たない、ということはなさそうだった。
化け物の脚の一本に、何かが引っかかってるのを見つけ、手に取る。大型魚の歯に穴を開け、海藻を通したものだ。外して、触手の一本に握りこんだ。
うずくまっているカルパッチョのもとに戻った。
「怪我はないか」
問いかけると、頷いた。
「あれが、例の化け物?」
「そうだ。森で見たのは、もっと大きかったが」
そう言うと、カルパッチョは驚きを大きくした。
「そんなのと、アカシたちは戦うんだ」
「そうだな」
触手を貸して立ち上がらせる。カルパッチョは化け物の骸を見つめ続けている。
「長老に報告せねばならん。戻るぞ」
そのまま半ば引き摺るようにして、アカシは砂浜を引き返しはじめた。
いつも騒がしいカルパッチョが、黙っている。アカシも沈黙したまま、歩いた。
二頭に気付いた巡回の戦士が寄ってきた。化け物のことを報せて、死骸を引き取りにやらせる。
そうしてようやく、壷の立ち並ぶ集落へと戻った。
「お前も一度帰れ」
わかった、と短く答えて、カルパッチョが離れていく。ふらふらと触手を振るので、アカシも一本触手をあげて応えた。
そうしてから改めて、アカシは村長の壷へ触脚を向けた。




