第二十七話 一番槍
己から前に出て、距離を詰めた。
アカシの後ろには驚きへたり込んでいるカルパッチョがいる。彼女にこの化け物を近づけてはならない。
化け物が姿勢を低くし、はさみを構えた。タラバのそれとは違う、細い脚の先についた小さなはさみ。それと顎とをがちがちと鳴らしている。
アカシは胴と槍を持つ四本の触手に海藻を巻きつけている。マ族の間でよく用いられる甲だ。だが、あのはさみと顎にかかってはひとたまりもないだろう。
それでもアカシは、自ら飛び込む。
右のはさみが突き出された。すれすれで体勢を低くしてかわす。胴上でがちりとはさみの閉じられる音がした。
砂上を滑り、突き出された右はさみの横へ回りこむ。
化け物の動きは速いが、ひとつひとつの動きの繋がりに、隙が見られる。これは、タラバ族にも見受けられる特徴だ。
鋭く突く。化け物はやはり跳んで、後ろへ避けた。
どうやらこの種族は、前へ進むより後ろへ跳ぶ方を得意とするらしい、と気付いた。
ならば。
槍を引いたまま、じりじりとにじり寄る。槍先を相手の目に向け、距離を悟らせないようにする。
相手は腹を砂地につけ、脚を畳んで身を固めている。はさみだけを前方に突き出し、迎撃の構えを取っている。
敵の間合いに、踏み込んだ。
強く打ちつけた触脚が砂を舞い上げる。気合と共に槍を繰り出す。それを弾き返そうと、はさみが振り上げられる。
だが。
その脚の付け根を狙って、アカシの槍が突き込まれた。
五本持ちの大槍が、甲殻の隙間を過たず貫く。そのまま、突き通した。
穂先を回し、抉る。化け物が叫びを上げた。
素早く槍を返す。化け物は後ろへ跳び退こうとしている。だが、アカシはそれを許さない。返す動作で石突きを、砂浜に突き込む。
槍を支えにして、頭上に跳んだ。
化け物が振り仰ぐ。だが、アカシが槍を持ち上げる方が早かった。
四本の触手を使って、化け物の頭を押さえつける。残りの四本は、槍を大きく振り上げていた。
そうしてそのまま。全体重を乗せて。
槍を、頭部に突き立てた。




