第二十六話 発見
「ところで、いいかげん離れろ。そして、皆のところへ帰れ」
「何でさ。いいじゃない」
話している間に、アカシは随分遠くまでやって来ていた。ひと続きの砂浜なので明確な区分はないが、すでに集落の外と認識されている領域だ。
「これ以上は危険だ。戻れ、カルパッチョ」
「そういうアカシは、何でこんなところまで来てるのさ」
「確認のためだ」
アカシはカルパッチョを無理矢理引き剥がした。カルパッチョがぶつぶつと文句を言う。アカシは無視した。
辺りを見回す。怪しいものは見当たらない。
「こんなところに、いったい何があるのさ」
「何もなければ、それに越したことはない」
しゃがみ込み、地面に触手を当てる。感覚を、最大限に研ぎ澄ます。
そのまま動かなくなったアカシを、カルパッチョがつまらなそうに眺めている。
どれくらいの間、そうしていただろうか。
顔を上げる。北東。何かが蠢く気配を感じた。
槍を構える。
「カルパッチョ。戻れ。早く」
「え。いったい何」
砂が巻き上がった。
甲殻。はさみ。細長い身体。
海藻の森で遭遇したのと、同じ姿だ。ただ、あの時出会った個体よりは小さく、黒っぽい縞の甲羅を持っている。
砂煙の向こうから一番手前のはさみを伸ばし、掴みかかろうとしている。だが、アカシはそれを読んでいた。
槍の柄で弾き上げる。開いた腹を、石突で叩いた。
化け物が下がる。身体全体を使い、弾かれたように水中を跳ぶ。凄まじい後退速度だ。
アカシは素早く周囲を観察した。
一頭だけ。他にはいない。
確証があったわけではないが、単独ではないか。ここに来る前から、そう判じていた。
そうでなければ。これまでの期間に、もっと族民の犠牲が出ているはずだからだ。
初めて、相手をつぶさに観察する。やはり、森で戦ったものとは相違がある。速さはあるが、あれほどの突進力は感じない。
こやつらにもいくつかの種があるのか。そして、この相手ならば。
己一頭で何とかできるやもしれん。四本の触手で、槍を構えた。




