第二十五話 変化
「あの光、最初は上を走っていたけれど、最後は遠く、どこかへ落ちて消えていったよね」
「見ていたのか、あれを」
「うん」
上水をあの光が走ったとき。集落には壷の中に避難するよう伝令が走った。アカシたち戦士だけが、不測の事態に備えて壷の外で観察していたのだ。
戦士でないカルパッチョが、光が消えた瞬間のことまで知っている。それはつまり、あのとき壷に閉じこもらず、外にいて流れゆく光を眺めていたのだろう。
「あの光が落ちて消えたところ。あれは確か。北の方角だった。マ・リネリスのある方角だ」
言われてアカシも思い出した。光が落ちて消えたのは、確かに北の方角だ。
「あの光が渓谷に落ちて、それで何事かが起こって、化け物どもが谷の奥から飛び出してきたと言いたいわけか」
「あってるかどうかわからないけど。思いつく中で原因になりそうなのって、それくらいなんだよね」
「ふむ」
あながち的外れでもない、とアカシは考えていた。わかったところで何がどうなるというものではない。だが何となく腹腔に落ちるものがあった。
「それだけじゃないよ。アカシ、以前に、産まれてくる雌の数が減ってるって言ってたよね。それもさ、ちょうど二巡り前くらいからじゃないかな」
アカシは目を見開いて、振り返った。だがカルパッチョはその背に貼りついているので、振り向いた先にはいない。
「何やってんの」
「いや……。確かにそうだ。雌の数が減っているのは、あの光が走ってからのことだ」
アカシは向き直ると、歩行を再開した。
「これも憶測だけど。あの光が走ってから、変わってしまったのかもしれない」
「何がだ」
「水が。いや、違うな。あたしたちを取り巻いている、様々なものたちが」
難しいことは、アカシにはわからない。だがカルパッチョが、何か大切なことを言わんとしているであろうことは、わかっていた。
「面白い考えだ。一度長老にも話してみよう」
「そうしてみて。あたし、えらい頭苦手だから」
「お前は誰もかも苦手だろう」
「それもそうか」
ざくりざくりという足音だけが、二頭を取り巻く水を震わせていた。




