第二十四話 疑問
「やつらはタラバ族と同じ殻もちの一族だ。堅い甲殻と、鋭いはさみを持っている。だが、身体のつくりは違うな。タラバは丸く平べったいが、やつらは細長い。脚も、タラバより多い数を持つようだ」
アカシはカルパッチョの問いに答えた。
「大きいの?」
「俺が見たやつらは、年を経たタラバと同じくらいの大きさがあった。力も、同じくらい強い。そして、突進力はタラバ以上だ」
「本当に化け物みたいなやつらなんだね」
「ああ」
話しながらもアカシは歩みを止めない。雌子たちの輪からはずいぶん遠ざかったが、カルパッチョはまだ背から離れようとしない。
「……勝てるの?」
不安そうな声が降ってきた。
「勝たねばならない。俺たちが生き残るには、それしかない」
アカシが言えるのは、それだけだった。
アカシは集落が大事だからなあ、と聞こえよがしに呟く。カルパッチョにとって、マ族の集落はそれほど執着のあるものではないだろう。だが集落がなくなった後、彼女の行く場所があるとも、アカシには思えない。偏った生を泳いできたアカシには、彼女の考えていることは、わからない。
「それはそうとさ、アカシ。その化け物たちは、どうして渓谷の奥から出てきたんだろう。今までずっと、姿を見せなかったのにさ。不思議だと思わない?」
確かに、とアカシは思った。事態に対処することで触手いっぱいでそこまで考えたことはなかったが、なぜ今出てきたのか、と問われれば、疑問だ。そこにはおそらく、何らかの原因がある。
「あたしも色々考えてみたんだけどさ。ほら、確か二巡りほど前に、上水を白い光が走って行ったでしょ。覚えてる?」
「覚えている」
マ族は七百のうねりを一つの単位として、一巡り、と呼んでいる。おおよそそれだけの数の波のうねりで、季節が巡ってくるからだ。二巡りというのは、二度季節が回ってきたということを意味する。
その二巡り前に、集落の上水を一筋の白い光が走り抜けるという事件があった。それはマ族という種がはじまってからはじめてのことであり、どのような舞や伝承の中にも、同様の現象が起きたと伝えられているものはなかった。




