第二十三話 メン族のカルパッチョ
背中にカルパッチョを貼り付けたまま、歩き出した。
「ねえねえ。アカシたちが見た化け物って、どんなの? あたしたち勝てるの?」
背中からカルパッチョが聞いてくる。彼女の好奇心が強いのは、今にはじまったことではない。詳しい話を聞こうと、機会をうかがっていたに違いない。
カルパッチョたちメン族は奇妙な一族だ。マ族やミズ族と同じ八本脚の同朋ではあるのだが、彼女らの持つ触手は異様に短く、ほとんど触手の体を成していない。そして、その身体は薄べったく、狭い隙間に潜り込むことが得意だ。
というか、アカシからしてみれば、その隠密性能以外に、彼女らの利点というものが思い浮かばない、肉体は貧弱で、力もなく、堅い甲殻も持たない。触手が短いので、ミズ族のように道具を加工することも得手ではない。種族として、何の役にも立たないのだった。
そうして現在、メン族は滅びようとしている。どこかの部族に攻められたわけでも何でもない。必然的な淘汰によって、数を減らしていったのだ。
集落としての数を保てなくなったメン族は、各部族へ逃散した。だが、いるだけで様々な役に立つイワツノ族らと違って、彼女らの存在はどの部族でも邪魔ものだった。
カルパッチョも、幾つもの集落を渡り歩いた。東のワモン族から追い出され、ミズ族に断られて、まだしも余力のあったマ族の集落に、ようやくにして引き取られたのだった。
だから、といっていいのかどうかはわからないが、カルパッチョは周辺集落の地理と事情に詳しい。
アカシは今までに、彼女から様々な話を聞いた。最初は、戦士として周辺の知識を得るために、彼女を利用しようと思っていた。だが、実際に話をしてみるにつれ、そんな打算はなくなっていった。
彼女にとっては、好奇心は生き残っていくための術でもあるのだろう。どうでもいいと思うようなことまで、彼女はよく覚え、よく話した。それらは戦いと狩りに生きてきたアカシにとっては新鮮で、彼女との対話で、アカシはそれまで知ることがなかった様々な知識を得た。彼女と話すことで、己の視野が広がっていくのを体表で感じていた。
そしてあちこちから壷弾きにあったカルパッチョにとっても、アカシと話すことはやすらぎとなったようでもあった。
カルパッチョにとって唯一の友ともいえるアカシに、彼女は気安くくっついてくる。色々見返りを得ていると思っているアカシは、拒否したくともなかなかにし難い心情であった。
それに。心辛いうねりを送っているカルパッチョにとってそれが墨抜きになるのなら、少しくらいはさせてやろう。そう思ったりもするのだ。たとえ時々マリネに見つかり、大喧嘩をすることになったとしても。




