第二十二話 砂浜
カニカマをウスヅクリに任せ、タコワサに投げ銛の修練を告げて、訓練場を離れた。
触手には五本持ちの、太く重い槍を握っている。大きな紅珊瑚の塊から削り出されたものだ。今までより遥かな重量を持つそれは、いまだ身体に馴染んではいない。だがこの槍を、自在に操れるようにする必要があった。
この槍を、アカシは今四本の触手で使っている。これを三本の触手で扱えるようにするのが、目標だった。
アカシは東の砂浜へと向かっていた。スミソアエの件があって以来、浜の警備は強化されている。あれ以降化け物の姿は発見されていないが、そのことがアカシに懸念を抱かせていた。
あの浜に化け物が入り込んでいたということは、どこかにやつらの侵攻路があるはずだ。それらしき細道は今、塞がれつつある。それはそれでいいが、やつらが一兵も残さず引き上げたかどうかは、わからなかった。
後々狩り場にするつもりがあるなら、先導役を配置しておく。知恵のある相手であるなら、そういうことも考えられた。
マ・リネリス南岸からここまでは、どれだけ急いでも二うねりはかかる。先遣隊がどこかに拠点を構えているかもしれないという憶測は、あながち間違いでもないはずだった。
警備の戦士たちと挨拶をかわしつつ、浜を巡った。今のところ、怪しいものは見つかっていないという。アカシの目から見ても、おかしなものは発見できなかった。
「大頭が何してるのさ、こんなところで」
不意に声をかけられた。声は低いところからしている。
足元に目をやると、やたらと触手の短い、平べったい雌の八本足が這ってきていた。
八本足の一種族である、メン族のカルパッチョだ。
「カルパッチョか。お前こそどうした」
「新しい砂掘りについての話し合いをしていたんだ。もっと深いところの貝を採れないかと思ってさ」
指す方を見ると、数頭の雌子たちが集まって、何やらおしゃべりをしている。アカシの姿を見つけて、あそこからこちらまでやって来たらしい。
「いいのか?」
「うん。ちょっと休憩」
そう言って、アカシの身体を這い上ってくる。アカシは顔をしかめた。マ族同士でなら、はしたないと思われる行為だが、メン族にとってはそうではないらしい。




