第二十話 若タラバ
アカシは静かに、若者の言葉を聞いた。
「お前たちに捕まってから、色々考えた。俺たちとお前たちは敵だ。敵だった。だがそれは、他に戦うものがいなかったからじゃないか。他と戦う必要がなかったからじゃないのか。俺たちタラバに反抗するものなんて、この辺りじゃお前たちマ族だけだからだ」
若者が言葉を切り、目を伏せる。
「だが、今は違う。谷の奥から、ヤツらが現れた。ヤツらは敵だった。俺たちと対抗できる力を持った敵だった。いや、違うな。ヤツらにとって……俺たちタラバは、餌だった」
認めるのが癪なのか、その声は小さい。
「お前たちとの戦いは、俺たちにとっては狩りだった。たまにやられることはあるが、大抵は勝ち、獲物を取って帰れる。そういう戦いだった。俺たちが狩られる側に回ることなんて、なかった。なかったんだ」
狩られる側に回って、ようやくマ族の戦士たちが背負っているものがどういうものか、少しだけわかった気がする。そう、若者は語った。
皆、黙ったままその言葉を聞いている。
アカシは少々感心していた。考えなしに見えたこのタラバの若者が、意外に物事を考えている。そしてこの短期間に、いったいどのような心境の変化か。
「たぶんだけど。俺たちの集落は、もうダメだろう。ヤツらに、食いつくされてしまっただろう。けど。そこから上手く逃げだせたやつがいるかもしれない。生き残ったやつが、いるかもしれない。いるなら、俺はそいつらを、助けたい。けど、俺の力だけじゃ、できない」
「それで、我々マ族に協力してほしい、というのか」
若者は頷いた。
餌のいい話だ、と思う。だが。もしもタラバ族の協力が取り付けられるなら、これほど心強いことはない。
「もちろん、俺も戦う。仲間が見つかったら、お前たちに協力するよう説得する。だから」
「話はわかった。だが、駄目だ」
アカシは強く否定した。




