第二話 目撃談
ミズ族より報せを受けたマ族の長老は、アカシを呼び出した。
長老の住む、集落で最も大きな壷を訪れたアカシは、長老より顛末を聞いた。連れ去られたのは、ミズ族のスミソアエという名の族民だった。
「さらわれたスミソアエは今だ行方知れずだ。おそらく、すでに生きてはおらんだろうと、私は見ている」
長老の言葉にアカシも頷いた。
「族民たちが目にしたそやつの姿かたち、何やら思いあたることはありませぬか」
事件を目にした者たちから、ともがらについての聞き取りを済ませている。曰く、その身体は赤く、硬い甲殻で覆われていて、一対のはさみを持っていたという。
「これはまさに、タラバ族の特徴に似通ってはおりませぬか」
「たこにも」
タラバ族は、いにしえよりマ族と争いを繰り広げてきた一族だ。殻持つものどもと呼ばれる種族のうちの一種族で、その身体は赤く、堅牢な甲殻で覆われている。そして、強力な武器となる一対の大きなはさみを備えている。戦士としても強靭な一族だった。
そのタラバ族と、今回遭遇したともがらの外見は、共通しているように思える。
「そやつを目にしたミズ族の中に、タラバ族を目にしたことがある者がいた。その者が申すには、はっきりとは言えぬが、タラバ族とはどことなく違っていたようだった、ということだ」
アカシは触手を組むと、しばらく考え込んでいた。タラバ族は、どちらかといえば正面からのぶつかり合いを好む傾向がある。このたびの件は、彼らの性向にはそぐわない気もした。
「決めつけはせぬ方がよい、ということですな」
「たこさま」
長老から調査のための出兵を命じられ、それを受けたアカシは壷を辞去した。副官のタコワサを呼び、準備を指示する。連れて行く兵は二十頭。隠密行に長けた者を選んだ。
もとよりマ族の者たちは隠密行に長けている。体色を周囲にあわせて変化させることができるし、腹腔に溜めた墨を吐き出すことで自在に煙幕を張ることができる。皆が皆、生まれついての忍びであった。
その中から選りすぐった二十頭。できるだけ早く、ともがらの正体を突き止めねばならない。アカシは、話を聞いたときから根拠のない焦りに囚われていた。
何かが起こる。戦士としての勘が、そう告げていた。