第十九話 訓練
二うねりほどが過ぎた。
道塞ぎ、匠頭との折衝とあちこちへ動き回るアカシは忙しい。だがその合間を縫って、部下の戦士たちに新たな訓練をつけることも忘れなかった。
全員に、今までより一段階重い武器を扱わせる。二本持ちの槍を使っていたものには三本持ちを。三本持ちを使っていたものには四本持ちを。投げ銛も、今までより長く太いものを持たせた。
今までの武具では通用しない。それが、槍を合わせたアカシの実感だった。受け止めるにも、押し返すにも。今までより重さのある武器が必要だと思った。
「これでは、今までの通りに動けないのでは」
現実的なタコワサがそう問うてくる。その通りだ、とアカシは答えた。
「これは俺の勘だがな、タコワサ。今度の戦では、速さよりも力が必要とされるように思う」
「確かに投げ銛は効きませんでした。ですが、やつらの甲殻にとて隙間はありましょう」
「それで運よく一頭を倒せたとして、どうする。重要なのはな、タコワサ。やつらに突進を許さないことだ。近づき、蹂躙させないことだ」
固まられて突進させれば、マ族では持ちこたえられない。それだけは疑いなかった。
「長い槍での突き。そして長銛の投射。この二つを、集中して訓練する。今までのように、縦横に動けなくともよい。背に回って、眉間を貫けなくともよい。近づけぬようにするのだ」
「わかりました」
タコワサが投げ銛隊の方へと去ってゆく。急に考え方を変えろと言っても、難しい話だ。だが、生き残るためには、やらねばならなかった。
通りの方から訓練場へ近づいてくる姿が見えた。反抗的だったタラバ族の若者だ。後ろに、監視の戦士が槍を持って続いている。
アカシの前まで来て止まった。もともと赤い甲羅を真っ赤に染めている。
「どうした」
問うと、一瞬間をおいてから、意を決したように、言った。
「俺も、戦いたい。一緒に、戦わせてくれ」




