第十八話 匠頭のゴマミソアエ
集会から毎うねりのように対策が練られた。
最初に行われたのは、北側から集落に続く道を塞ぐことだ。
集落の北には珊瑚山まで岩場が広がっているが、そこには小さな谷がいくつも存在し、平坦な道と、切り立った岸壁が続く丘陵が複雑に入り組んでいる。
それらのうちから、丘陵に挟まれた細い道を選び、塞ぎにかかった。
集落に三頭いるイワツノ族を総動員し、近場から運び込んだ大岩で、隙間道を塞いでいく。これは、複数の方向から攻め込まれないようにするためだ。
タラバ族は、切り立った岩を登るのは苦手としている。化け物どもがタラバと同じく登攀を苦手としているかどうかはわからないが、殻を持つものであるからには、マ族のようには壁を登ることはできないだろうと予想された。
アカシは匠頭たちのところへ詰めかけていた。
「六本の触手で使う、大きな銛をつくって欲しい」
はじめにそれを聞いた匠頭の長であるゴマミソアエは、訝しげな顔をした。
「そんなのが、狩りや戦で使えるの?」
ゴマミソアエは長らく銛を削り続けた老練の雌匠頭だ。聞いてすぐに、それが到底戦場で使えるものではない、と思ったらしい。
「使えるようにせねばならない。今までの銛では、おそらく今度の戦では、役に立たない」
「アンタが言うならそうなんだろうけどさ。使えるようにできるあてはあるの?」
「ないこともない」
ゴマミソアエが触手で胴の裏を掻いた。
「はあ。わかったよ。やってみる。何本くらい必要なの?」
「できるだけ多く」
お手上げだ、という格好をこれ見よがしに取ってみせた。だが、何としてでもごり押ししなければならなかった。
「集落を守るためなのだ、ゴマミソアエ」
「わかってるわかってる。ミズ族の威信にかけて、できる限りやってみるさ」
体格的に劣るミズ族にとって、道具をつくり出すことこそが存在意義だ。ミズ族がつくり、マ族が使う。そうすることで、互いが生き残っていくことができるのだ。
ひらひら触手を振るゴマミソアエに頼むと告げて、工房を辞去した。彼女の隣にいつもいたスミソアエは、いない。その背は、心なしか寂しそうに見えた。




