第十七話 宣戦
マリネとアカシの二つ舞は続く。
広場に集まったすべての族民が、熱のこもった瞳で二頭の舞を見ていた。
勇士タコヤキの舞は有名なものだ。見ているほとんどすべての族民は、その筋を知っている。だが大事なのは、それが何を伝え、何を遺しているかということだ。
多くの者が思い出しただろう。なぜ己たちが、今この場に集落を構えているのか。なぜ暴虐なタラバ族に抗してまで、集落を守っているのか。
そして、なぜ生まれてくる幼子らの半数が、飢えて死にゆくのか。
マリネめがけて槍を突き出す。マリネはそれを、胴体でやわらかく受け止めた。
タコヤキの最期を演じて、マリネは舞を終えた。いつの間にやら、辺りは静寂に包まれていた。
互いに槍を立て、長老に向き直る。そうして、言葉を待った。
「戦おう」
低い、だが確かな声で、長老が言った。場は沈黙している。だが波のように。波紋のように。その言葉が広がっていくのを、アカシは体表で感じ取っていた。
「戦おう」
「戦おう」
「戦おう」
波はうねり、返し、高く、強くなり。広場の隅々まで、広がっていく。銛が掲げられる。槍が打ち鳴らされる。
皆がわかっていた。ここよりもう、後退できる場所はない。戦わなければ、滅びるだけだ。
「戦おう」
アカシの口からも、言葉が漏れていた。そうだ。戦うのだ。集落を、守るのだ。
そのために俺は、戦士となったのではないのか。
「戦おう」
マリネも体表を赤く染め、声を上げていた。鍛え上げた戦士であるはずのマリネのそんな姿を、綺麗だ、とアカシは初めて思った。
槍を持ち直し、広場を離れる。喧騒が、背中を襲っている。
遠景に目をやる。遠くに白い珊瑚山が見える。あの向こう側に、やつらはいるはずだ。
何ものかはわからない。だが。
容易く食えると思うな。まだ見ぬ軍勢に向かって、アカシは槍を突きつけた。
(第一幕 完)




