第十六話 マリネ舞う
輪の中央まで出て、マリネは立ち止った。触手にはいつもの遣い慣れた槍を持っている。
ざわめきは止んでいる。皆がこの雌の戦士を注視していた。
マリネが三本の触手で槍を握る。残りの五本で踏み出すと同時に、斜めの軌道で一回転させた。
韻を踏みながらマリネが回る。それに合わせて槍が振り上げ、振り下げられる。
それは舞いだった。
マ族は舞にものがたりを載せる。過去の伝承を、逸話を、踊りに載せ、あわせ、継承することで、それらを遺してきた。
マリネが舞っているのは、はじまりの勇士タコヤキのものがたりだ。
その昔。まだ渓谷の南岸にマ族が集落を構えていた頃。その集落を「殻をもつものども」が襲った。襲撃者たちはマ族に比べて圧倒的な力を持っており、マ族は集落を捨て、南へ逃げることを余儀なくされた。
その際に、最後まで集落に残り、一頭でも多くの族民を逃がすことに尽力したのが、勇士タコヤキだ。
身体の大きなマ族だったという。四本持ちの槍を、三本の触手で操ったという。左右に大槍を一本ずつ手挟み、殻をもつものどもに立ち向かったのだという。
そのタコヤキが、身を呈して族民を守り、今の集落ができる礎となったのだ。マ族やミズ族に最も愛されている、伝説の勇士。それがタコヤキだ。
同じような戦い方をするアカシを、タコヤキの再来だという者もいる。それを聞くアカシはといえば、いつも複雑な心情ではあった。タコヤキはその戦い方で勇士となったのではない。その行いこそが、勇士だったのだ。アカシはそう思っている。
そのタコヤキを身に宿して、マリネが舞う。見えない殻持ちどもに対して槍を振るう。
ふと隣に目をやると、タコワサが熱っぽい視線をマリネに向けていた。
槍を握り直し、マリネの方へ踏み出した。
旋回しながらマリネの隣に移動する。槍を横に倒し、殻持ちに擬態する。一瞬だけ、視線を交わした。
マリネは、すぐに了解したようだった。
マリネが突きかかってくる。二本の触手ではさみをつくり、跳ねあげた。
勇ましい雌戦士に合わせ、舞う。舞っているうちに、わかったことがあった。
集落を襲った殻持ちはタラバ族であると、聞かされて育った。だがこうして相を務め、擬態してみたならば。
その姿は平べったいというよりも、縦に細長い姿をしている。そうした姿を、舞いは伝えている。
そうか。そうだったのか。
あの化け物たちは、どこからともなくわき出してきたのでは、なかったのだ。




