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終話 アルシア

 荒野を長い列の一群が進んでゆく。

 水の揺れは少なく、波は穏やかだ。荒れ地の多くは砂で覆われているが、それらはほとんど巻き上がることなく、冷え冷えとした環を形づくっている。

 だがそれだけに、激しく動き回る生き物は少ない。魚もほとんど寄りつきはしない。

 そんな地を、群れは粛々と進んでゆく。

 時折、進む先に珊瑚や海藻の密集する杜がある。杜を見つけては、群れはそこに立ち寄る。そこには獲物となる魚や小さな生き物たちが潜んでいるからだ。

 新たな種族に出会うこともある。いきなり襲われることもあれば、話し合いができることもある。話し合いができる場合、群れの長たちは己たちの道行きを静かに語った。

 あるものは、道を示した。あるものは、何を言っているかわからぬと答えた。

 そしてあるものは、一緒に連れて行って欲しいと請い願った。

 そうして群れの数を増やし、また減らしを繰り返して、それらは進んでゆく。

 大抵は丘だった。少しずつ、少しずつ水の上の方に近づいている。群れに属する者たちは、そう感じていた。

 ついてゆけなくなる者がいた。水が薄くなり、耐えてゆけぬようになったのだ。ある者は死に、ある者は群れを離れた。

 それでも群れは、丘を進んだ。

 光は増していた。深き底にいたときには時に差し込む程度であったそれは、今や周囲のそこかしこに溢れている。

 長く住んだ地を離れ、彼らはようやくここまで移って来たのだ。

 はじめに旅立ったものどもの多くは死に、もしくは別れた。旅路の中で新たに生まれたものどもたちが、今や群れの中心であった。

 新たに生まれたものどもの多くは、水の薄さを苦にしない。生まれたその地に応じるかのように、適した肉体を持っていた。

 だがそれでも。マ族に生まれたものはやはり八本の触手を持ち、丸く膨らんだ胴を持っている。

 先代以上に触手を器用に操り、様々な道具を用いるようになっていたとしても。マ族はマ族なのだ。

 先に立つ一頭が触手を上げ、さらにその先を示す。丘は高く伸び、上水へと続いている。

 それは水の切れるその先にもまだ、続いているように見えた。

 別の一頭が触手を上げる。岩場と海藻の杜がある。群れを留め、ここの水に慣れさせるには絶好の場所であろう。

 先頭のマ族が踏み出す。その一頭は他より大きく、強靭な肉体を持っているように見える。触手に握るのは四本持ちの、赤珊瑚の大槍だ。その槍をこのマ族は三本の触手で支えている。この個体は、マ族の戦士なのだ。

 戦士は歩む。水は光に包まれている。水の先、その場所にはまだ踏み出すことができない。


 だがきっと。だがいつか。


 踏み出すだろう。たどり着くだろう。


 何代先かはわからぬ。だがきっと、彼らはそこに、ゆくだろう。


 丘を越え、水を越え、環の巡りとうねりを越えて。


 きっとそこへと、ゆくだろう。



(完)



 お読みいただき、誠にありがとうございました。

 ご感想やレビューなどお寄せいただきますと次回作への活力になるかと思われます。



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