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第百四十四話 夢幻

 アカシは大きく槍を引き戻す。

 パエリアの顎の端。そこにはシメノ=ゾウスイのつけた傷跡が、いまだ癒えずに残っている。甲殻が大きく割れ、下の肉が覗いている。

 そこへ向け、二本の槍を同時に突き込んだ。

 光があった。

 水上から差し込んだものか。そう思った。だが光を抜けた先にあったのは、パエリアの巨体ではない。

 見知らぬ大地だった。見渡す限りどこまでも続くと思われるような荒野が広がっている。その荒野を、どこかもわからぬ遥か高い場所からアカシは見降ろしているようだった。

 ただ広き荒野に点在する高き岩場や窪地を縫うようにして、進みゆく一群がある。アカシは目を凝らした。

 見知った一群だった。

 ツクダニがいる。群れの先頭に立ち、後に続くものたちに命を下している。

 タツタアゲがいる。生き残ったマ族の戦士たちをまとめ、周囲を探索させている。

 マリネがいる。アカシが知るそれより、雌らしい身体つきになっている。中央に固まる雌たちに声をかけ、励ましている。

 シオカラがいる。ミズ族の匠頭たちと共に、珊瑚から何かを削り出している。それはアカシが今までに目にしたことがない道具だ。

 隣にはジェノベーゼがいる。体表から察するに、どうやら二頭はつがいになったらしい。

 アヒージョがいる。巡りの若い戦士たちに訓練をつけている。それを静かに見守っているのは、タラバ族のゾウスイだ。

 ナムルが舞っている。姿かたちがマ族でなければ、オドリグイが舞っているものと判じただろう。それほどに力のある、素晴らしい舞いだった。

 その他のものも、どれもかも。見知らぬ体表や見たこともない種族も混ざっているが、疑いなくアカシの同胞たちだ。

 そうか。これは同胞たちの道行きなのだ。

 アカシは触手を上げ、示す。

 わかるか、環よ。わかるか、長き殻どもよ。

 俺が守りたかったのは、これなのだ。俺が守りたかったのは、この光なのだ。

 今眼下に広がるこれの尊さが。わかるか、パエリア。

 アカシは一点を注視する。列の前方辺りにひっそりと紛れる、小さな、触手の短い個体。

 カルパッチョ。

 周囲が彼女に向けている視線はすでに、虐げていたものに向けていたそれではない。

 群れはいまだ、新たなる土地を求めてさまよう旅の途中だ。だが。

 カルパッチョ。お前は居場所を、見つけたのだな。

 静かな、そして暖かな波が、アカシの肉体を満たした。


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