第十四話 族民会議
聞き取りはやはり、委縮した二頭のタラバから進んだ。
化け物の姿を詳しく聞き出した長老は、族民の主だったものを呼び集めた。ミズ族の長老をはじめ、集落の長や戦士たちが中央の岩場に集まる。なぜか呼ばれていないはずの族民たちまで、数多く集まっていた。
アカシは序列の中ほど辺りで、タコワサを隣に置き、タラバたちを引見して集まりに参加している。触手には四本持ちの槍を握り、辺りを警戒していた。
三頭のタラバは皆疲れ切った顔をしている。暴れ出す恐れはなさそうだった。
「皆のもの。ミズ族の集落を襲ったものの正体が判明した」
長老が重々しく告げる。アカシの報告と、タラバ族から聞き出した情報、それらを集めてつくりあげられたともがらの外見を、族民たちに語ってゆく。タラバに似た甲殻とはさみ。だがその身体は平べったくはなく、縦に細長い。
「まさに、私が見たのも、そのようなものでした」
スミソアエがさらわれるのを見た族民が、答えた。声が震えているが、返答は確固としたものだ。
「では、間違いないとみてよいな。こやつらは、渓谷の奥より湧き出し、北岸を支配していたタラバ族の集落を襲い、占拠した。そうしてやつらは、タラバ族を食いつつ、北岸を埋め尽くしたそうだ」
場がざわついた。タラバ族の恐ろしさは、ここにいる者の多くが知っている。そのタラバたちが追いやられたなど、にわかには信じられないだろう。
「これは事実だ。そうしてやつらは北岸だけでは満足せず、この南の地にまで触手を伸ばしてきているようだ。先のスミソアエの件は、おそらくやつらの物見であろう」
ざわつきが大きくなる。長老は、しばらくそれに任せていた。
物見であろう、というのはアカシの考えだった。タラバ族をも食べるのであるから、やつらにとってほぼすべての種族は食糧であるはずだ。にもかかわらずスミソアエ一頭で済んでいるのは、集落に現れたともがらは一頭ないし少数であろうと推察できる。ならばそれは、単なる先触れ、物見であったのだろう。
タラバを襲い、やつらの腹は膨れた。南進してくるのは、それらが足りなくなってからだろう。本格的な襲撃は、おそらくこれからはじまるのだ。
「つまり、そのタラバどもが、化け物をこの南まで引っ張ってきたということか!」
年寄りの族民が声を荒げた。長老が触手を上げてそれを遮る。
「そうかもしれん。だが、どちらにせよ遅いか早いかの違いだけではなかったか、と私は考える」
そうだろう、とアカシも思った。確かにタラバ族が北に逃げていれば、化け物どもも北に向かっていたかもしれない。だがどちらにせよ、豊かな渓谷の南岸に気付かずいつまでも放置していたとは、思えなかった。




