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第百三十九話 岩壁

 脚はクルマ族やクロトラ族のそれとは比べ物にならぬほど太く、先端は槍の如くに尖っている。それが五対、フナモリと名乗ったイセ族には備わっている。さらによく見てみれば、一番尾の側の一対の先は小さなはさみになっているようだ。

 相対したときからアカシは、まずその脚に気を配っていた。フナモリの動きは、マ族の戦士やクロトラ族に比べれば鈍重といってもよい。だが起りの動作は機敏だ。

 最小限の動きで相手を仕留める戦い方をするのではないか、とアカシは判じていた。

 だからこそ視界の外からの一撃にも対応する。フナモリの脚が地を穿ったときにはすでに、アカシは顎下に飛び込んでいた。

 勢いのままに槍を突き出す。穂先が甲殻を擦る。やはり堅い。おそらくは、他の長き殻どもの比ではないだろう。力任せに突けば、槍の方が折れる。伝わって来た感触から、そう察することができた。

 岩壁と相対している。そのように思えた。

 それでも。今のアカシたちには与しやすい相手だ。一号の手合わせで、アカシはすでにこの敵を討ち倒そうという気は失せた。そして、この相手から逃げ回ることだけならば、容易いことだ。

「我を止めようとも、我が群れは止まらぬよ」

 考えを見透かしたように、水の多く混じった声でフナモリが言う。嗤っているようだった。

 アカシも槍を構えたまま、笑いを返した。

「俺とて、己一頭だけではない。群勢は止まる。我らが戦士たちが止める。思いどおりには、いかせぬ」

 タコワサがいるのだ。すべての触手をもがれようとも、必ず押し留めるだろう。

 ならば。

「俺は、お前たちだけを押し留めればよい」

 長き殻どもの体表は読みにくい。だが、フナモリがやや悔しげな体表を見せたように、アカシには思えた。

 突如、水が荒れ狂う。巨大なものが、這い近づいてくる気配。

「アンタの負けだなぁ、爺さん」

 フナモリに劣らぬ巨体。やや黒っぽく、丸みを帯びた甲殻。そして、すべてを叩き潰すかのような、禍々しい二つのはさみ。

 その後方には、彼女の脚下であろうと思われるクロトラ族が群れている。

 パエリア。

「強欲の」

「こいつはアタシの獲物だ。お仲間を何とかしてやりな」

 パエリアが振った顎の先には、マ族の戦士たちに掻き乱されているクルマ族の群勢があった。

 戦士たちは敵の力と速さを削ぐようにして、小さな傷をつけては逃げるを繰り返している。その動きにクルマ族は翻弄されているようだった。


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