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第百三十八話 墨攻

 群れはたちまち乱れをきたした。

 深追いはしない。一撃をくれた戦士たちはすぐに離れ、振り回される脚や顎を避ける。そして岩場や置き残された壺や、様々な影に再び潜む。

 巨大な個体が声を上げ、群れを立て直そうとする。そこを狙い、再び戦士たちは姿を現し、一撃だけを振るった。

 乱れさせ、留める。それがアカシと戦士たちの役割だ。

 それでもアカシの一撃は重く、強い。はじめの一刺しを受けたクルマ族は、ほとんど横倒しになっている。その見えた横腹に、素早く近づいたアカシはもう一刺しを加える。命を絶った。その手ごたえがあった。

 数を減らせる機が見えたならば、それを逃しはせぬ。

 戦士たちが再び影へ逃れる。采配を取る大きな個体は冷徹だった。

「構うな。出よ」

 その言と同時に、列を乱したままで数頭のクルマ族が門外へ駈け出る。

 見透かされているか。アカシは腹中の水を吐き捨てた。

 戦士たちと視線を交わす。触手の二本で合図を出した。

 三頭の戦士が離れ、門外に出たクルマ族たちを追う。残りの戦士たちは、手近に転がっていた壺へと殺到した。

 戦士たちは壺へと槍を突き込む。力を受けた壺が転がり、岩場より落ちる。

 それらは門を塞ぐように散らばり、砂を巻き上げる。砂と混ぜ合わせるようにアカシが、戦士たちが墨を吐きかける。

 水はたちまちのうちに濁りを見せ、長き殻どもから視界を奪った。

「おのれ! 小賢しい真似ばかりを!」

 響くのは大きな個体の声だ。相当の老頭であろうか、とアカシはその声から判じた。

 墨に紛れて、隊を組んだマ族の戦士たちが、クルマ族に傷を与えてゆく。前方にいる個体が動けなくなれば、群れは止まる。いや、クルマ族どもは容赦なく味方を踏み越えるであろうが、それでも速さは落とせる。

 穂先を大きく振り、擦るように。一頭でも多くの敵を傷つけるようにして、アカシは槍を振るう。

「貴様が頭か」

 ひと際巨大な個体が、アカシと対峙した。その目は怒りに濁っているように見える。

 アカシは槍を握り直して、穂先を向けた。

「マ族の大頭、アカシ」

「イセ族のフナモリだ。覚えずともよいぞ」

 脚が落ちてきた。

 落ちてきた、と表するのがまさによい、と思われる一撃だった。視界の外側。上からアカシの胴を越えるようにして、フナモリの脚が落ちてきたのだ。


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