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第百三十七話 壺穴

 タコワサと別れた後。十頭の戦士を連れたアカシは集落の門を迂回し、岩壁を潜っていた。

 マ族の集落の東西を囲む岩壁には、いくつかの割れ目や隙間がある。それらは自然のうちにできたものだが、それは一目でわかる類のものではない。

 幅はとてつもなく狭く、そもそも近づいてみなければ、そこに隙間があることすら気付けない。そのようなものだ。

 気付いたとしても、そのような場所を抜けてくるとは思いもよらない。それほどに細く狭いものだ。そこを抜けて侵入するものがいるなど、考えも及ばぬことだろう。

 柔らかきものども以外にとっては。

 柔らかきものどもにとっての認識は違う。胴の幅。それが通る隙間さえあれば、柔軟な肉体を持つ柔らかきものどもは、まるで水に溶けたかのように全身を脱力させ、抜け、越えることができる。多くの種族が知らず、また知ったとしても、到底信じぬ話だ。

 そして今まさに、その隙間ともいえぬ隙間を越えて、集落内へ侵入を果たした戦士たちがいる。隠遁。隠行。隠密。それらの業前において、長き殻どもが柔らかきものどもに勝るものなど何ひとつない。

 とはいえ、アカシたちの側から集落へ忍び込むことは、危ういことでもある。だが、長き殻どもの群れを留め、散らさぬためには、ここを戦場にするのが最もよい。

 隠れ潜める場所が多いことも利点だ。真正面から戦えば敗死は必定である。奇襲を繰り返し、敵を惑わせ、一頭ずつ潰してゆく。それを成すための策であった。

 壺穴に入らずんば多子を得ず、ともいう。壺穴に入るべきときだった。

 広がる墨に物見が気付いたか、集落内がにわかに慌ただしくなる。それを見てアカシは合図を出し、隊を散らせた。

 集落の南門に長き殻どもが集ってくる。その中にひと際目を引く巨大な姿があった。

 パエリアか、とはじめは思ったが、どうも姿形が違う。やや黒っぽい甲殻を持つパエリアに比べると、その色は鮮やかだ。そして、全体に丸くすべらかであったパエリアとは違い、全身が小さな棘に覆われている。

 これほど巨大な個体が、まだ別にいたのか。

 どれほどの力かはわからぬ。だがおそらくは、パエリアと並ぶほどの力を持っているのであろう、とアカシは判じた。

 群れ集う中、どうやらその巨大な個体が群れを差配しているようだと知れた。頭部から伸びるその長い二本の触角の動きに合わせ、クルマ族が列を整えてゆく。

 号令と共に、クルマ族の先頭が門を飛び出た。

 動き出したその瞬に合わせるように。アカシも岩陰から伸び上がった。

 触手に持つは赤珊瑚の大槍。その穂先を最も近くの、無防備なクルマ族へ突き立てた。

 頭部と胴の隙間に槍を突き込まれたクルマ族が叫びを上げる。それで群れも、巨大な個体も気付いた。

 だが遅い。

 群れの不意を突くように。水中を十頭の戦士たちが、跳び、舞い。槍を突き出した。



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