第百三十六話 光落つ
いったいどれほどに、群れでの戦いを鍛え込んでいるのか。マ族のそれとは違うものの、やはり力だけの種族ではない、と思わせる動きだ。
そうなのだろう。生き残ってゆく種族というのはきっと、そういうものなのだろう。
だがだからといって、諦めるのではない。
そういうものの中で。囲まれた中で。あがき。もがき。渦を巻き、泡により遮られる視界の中、一すじの道を見出し、泳いでゆく。
そういうものを、やわらかきものどもは、選んだのだ。
マ族の雌戦士、ナムルが二頭のクルマ族の前に躍り出る。オドリグイを守る最後の槍だ。
オドリグイはこれからの道行きに大事な存在だ。だが、それよりも大事なのはナムルではないか。タコワサはそう考える。
オドリグイはおそらく、もう長くはあるまい。そうしてそれを見越して、オドリグイはナムルにすべてを託した節がある。
ならば。ここでナムルを食わせるわけにはいかぬ。
水中から地へと落ちゆくタコワサは、銛を構える。墨は薄まりつつある。
一点に狙いをつけ投擲した。
砂煙を巻き上げ走る二頭のクルマ族が、タコワサの位置から見て真横に並ぶ、その一点。
放たれた銛は、シオカラのつくり上げた四枚刃の長銛。その銛が、水上から地へ。広がる墨を抜け、墨を引いて。
手前の一頭。その頭部。甲殻を貫き、穿ち。
回りながら突き抜けたそれは、奥の一頭をも刺し、地に貫き留めた。
オドリグイを守り、ナムルが逃げ行く。その姿が遠くなってゆく。
二頭の棘持つものどもが、長き殻どもの群れを押す。
動きの止まったクルマ族に、三頭のマ族の戦士が槍を突き立てる。
これでよい。タコワサは密やかに笑みを浮かべた。
眼下。数頭のクルマ族が泳ぎ出て、タコワサに襲い来る。タコワサはすでに無手だ。六本となった触手を翻し、踊るように顎を避ける。
一の触脚。二の触手。
舞のように。その身に雄姿を宿す如くに。恐るべき群れの中をタコワサは潜り抜ける。
鋭い一撃をくれるものがあった。
クロトラ族。密かに群れに混じっている。いつの間に。
喰いつかれた、と思ったと同時に、強い熱があった。
それから続くように同じ熱が一つ、二つ。
動かぬ触手を切り離す。前へ進む。
その先に待っていたように。クルマ族の顎。
強い。そして強かだ。だが。
守ったぞ。
声にならぬ声で叫びながら。タコワサの肉体は、いくつもの長き殻どもの頭部に埋もれ。
上水から一条の光がしばし差し、それから消えた。




