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第百三十四話 勇士

 目の裏側に浮かぶのは。一つの舞いだ。

 マリネ。あの雌を意識しはじめたのは、いつ頃であったろうか。

 マ族に雌の戦士は多い。雌の戦士は雄の戦士と行動を共にすることが多いぶん、つがいとなることも多い。戦士同士がつがいになることは老頭たちからすれば喜ばしいことではなかったようだが、それはなるべくしてなることであり、いつの巡りにも減ることはなかった。

 雌の戦士たちの中でタコワサが気にかけていたのが、マリネだった。

 強い、というのがマリネを目にした際、はじめに感じたことだ。

 鍛えられているのはもちろんであるが、それ以上に強靭なこころを持ち得ている、と感じた。立ち姿はいつでも殻持つものどものようにまっすぐで、その二つの目もやはり、いつも正面を見据えているのだ。

 澄み渡った水のようだ。そう思った。

 いつしか、己がつがいになるならマリネがよい、と、そう考えるようになった。

 そこに立ち塞がったのは、また、アカシだ。

 マリネとアカシはお互いに思い合っている。そう気付くまでに、それほどのうねりはかからなかった。

 だから諦めようと。そう、思っていたのだ。

 あの、マリネの舞いを見るまでは。

 勇士タコヤキをその身に降ろしたマリネの舞い。それは、諦めかけていたタコワサのこころを魅了するには充分なものであった。

 アカシでなくても、なれるのだ。

 マリネの舞は、そのことをタコワサに教えてくれた。

 どうして諦めたのか。どうして随一の戦士になることを、諦めたのか。どうしてアカシを越えることを、諦めたのか。

 どうして、マリネを、諦めようとしていたのか。

 己の限界がそこにあったことを、タコワサはようやくに悟ったのだった。

 だからこそ。

 この役だけは、譲れぬ。諦めぬ。

 クルマ族の大群を前に、タコワサはただ一頭、立ちはだかっている。

 逃げゆく群れを、同胞を守るために。ただ一頭、銛を触手に持ち、立ち塞がっている。

 ああ。その様はまさに。

 あこがれ続けた、伝説の勇士。タコヤキのようではないか。

 先頭のクルマ族が鋏手を突き出す。触手をまとめ、藻一重でかわす。相手の勢いに乗じ、銛を突き込む。目と目の間。浅い。

 抉るように素早く引き抜き、その背を走った。

 多数の脚と顎が殺到する。肉体を蠢かせ、それらを回避する。顎の一つが誤って、仲間へと牙を立てる。群列は、乱れていた。


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